天使のアリア––翼の記憶––
「…この会議室は防音設備がなされていますので心配はいりませんよ」

斎藤先生は藍羅先輩の手を握ったまま、気づかれないようにこそっと耳打ちをしてくれた。

防音設備と聞いて少し安心した。

もし聞かれていたら、婚約者さんの身に危険が迫るところだった。


「君たちはここで何をしているのかな?仕事中だろう?」

斎藤先生は看護師さん達を一瞥してそう言った。

「「「今は休み時間なので!」」」

声をそろえてそう言い返された。

「…そう。それなら、まあいいけど。
藍羅さん、行きましょうか」

そう天使の如く微笑んで、斎藤先生は藍羅先輩をエスコートする。それはもう完璧なまでに美しく、無駄な動き一つもない。

藍羅先輩も、高校生だとは思えないほど美しい仕草をなさるものだから、本当に絵になる。

その場にいる皆が二人を見て息を飲んで見つめる。

私もはぐれないようについていく。


二人はいい意味で浮いている。とてもここが病院だとは思えない。ホテル、と言われても納得できる。

これで斎藤先生がスーツ、藍羅先輩がドレスだったら…きっと鼻血モンだろう。絵本や映画の世界に飛び込んだと錯覚するだろうな。

でも、やはり藍羅先輩にはデューク先輩の方が似合うと思ってしまう自分がいる。

藍羅先輩をあのヘラヘラした男に渡すのはちょっと、否、凄く、嫌だ。

だけど、藍羅先輩と私を竹取会から守ってくれたあの時の姿を思い出せば、やはり頼れる人ではあると思う。

それに藍羅先輩一筋みたいだから、きっと先輩を泣かせるような真似はしないと思うけれど。

まぁ、私は藍羅先輩のお父さんではないので、何をいう権利もないんだけどさ。

ぐるぐると藍羅先輩の恋愛事情を考えているうちにどうやらロビーについてしまったらしい。


「それでは今日はありがとうございました」

ふんわりした物腰の柔らかい微笑みで礼を言われる。

「あぁ」

「こちらこそ」

その笑顔に微笑み返す。

因みに周りには一般客も巻き込んで私達を取り囲むように大きな輪ができている。そしてその目線は、斎藤先生と藍羅先輩に向けられている。

美形はどこにいても目立つのだ。
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