天使のアリア––翼の記憶––
「ではまた後日お会いしましょう、藍羅さん」
きっとこの台詞も仕方なく言ったことなのだろう。
藍羅さん、と言ったとき、一瞬だけ瞳に罪悪感が灯ったのを、私は見逃さなかった。
この人も婚約者さん一筋なんだなと思った。
そう思ったのは私くらいで、周りの人達は「藍羅さん」と呼んだことに対してとても大きな衝撃を受けたらしい。
「さ、斎藤先生?それはどういうことですか?」
「も、もしかして?」
斎藤先生は口々に発せられる質問の一つ一つに答えることなく、反論も訂正もすることなく、ただただふんわりと微笑むものだから、皆その微笑みを肯定の意味で受け取っている。
「まさか、孤高の歌姫と斎藤先生が…!」
パタリ、と倒れた看護婦さんの後が絶たない。どれだけショックだったのだろう。
この状態では確かに斎藤先生と婚約者さんの関係はバレないだろうけど、これは別の意味で大変になるんじゃないかな。
もし婚約者さんがこの話を聞いていたら…
もし婚約解消だなんて話になったら…
どの疑問も消し去ることはできない。
大丈夫かな、と私一人だけが心配している。
不意に時計を見て見ると、そろそろバスが来る時間だった。
「藍羅先輩、そろそろ時間が」
それだけ言うと、先輩は全てを察してくれた。
「ではあたし達はこの辺で」
私はペコリとお辞儀して、病院の外に出た。
「大変だったな」
「そうですね」
私達は先ほどまでのことを回想しながら苦笑いをした。
まさかこんな事態になるとはね。予想もしていなかった。
「おなか減りましたね」
時刻はまだ12時。お昼時だ。
「どこかご飯屋さんに寄ってから帰ろうか」
「いいですね」
先輩の提案に賛成して、朝来た道を引き返す。
陽が燦々と降り注ぎ、緑は更に輝きを増す。生き生きとした、艶やかな緑だった。
きっとこの台詞も仕方なく言ったことなのだろう。
藍羅さん、と言ったとき、一瞬だけ瞳に罪悪感が灯ったのを、私は見逃さなかった。
この人も婚約者さん一筋なんだなと思った。
そう思ったのは私くらいで、周りの人達は「藍羅さん」と呼んだことに対してとても大きな衝撃を受けたらしい。
「さ、斎藤先生?それはどういうことですか?」
「も、もしかして?」
斎藤先生は口々に発せられる質問の一つ一つに答えることなく、反論も訂正もすることなく、ただただふんわりと微笑むものだから、皆その微笑みを肯定の意味で受け取っている。
「まさか、孤高の歌姫と斎藤先生が…!」
パタリ、と倒れた看護婦さんの後が絶たない。どれだけショックだったのだろう。
この状態では確かに斎藤先生と婚約者さんの関係はバレないだろうけど、これは別の意味で大変になるんじゃないかな。
もし婚約者さんがこの話を聞いていたら…
もし婚約解消だなんて話になったら…
どの疑問も消し去ることはできない。
大丈夫かな、と私一人だけが心配している。
不意に時計を見て見ると、そろそろバスが来る時間だった。
「藍羅先輩、そろそろ時間が」
それだけ言うと、先輩は全てを察してくれた。
「ではあたし達はこの辺で」
私はペコリとお辞儀して、病院の外に出た。
「大変だったな」
「そうですね」
私達は先ほどまでのことを回想しながら苦笑いをした。
まさかこんな事態になるとはね。予想もしていなかった。
「おなか減りましたね」
時刻はまだ12時。お昼時だ。
「どこかご飯屋さんに寄ってから帰ろうか」
「いいですね」
先輩の提案に賛成して、朝来た道を引き返す。
陽が燦々と降り注ぎ、緑は更に輝きを増す。生き生きとした、艶やかな緑だった。