天使のアリア––翼の記憶––
「皆さん、素敵な笑顔ですね」

ハイチーズ、と写真を撮る時だけ瞬時に作った笑顔なんかじゃなくって、心から笑っている幸せに満ち溢れた一時を切り取ったような、そんな素敵な写真。

見ているこちらまで幸せな気持ちになってしまう。

「とても素敵なご家族ですよ。皆さん家族思いでお互いをとても大事にしておられて…だからこそ、僕は何とかして彼女を治したいのです。

…本当に珍しい病気で効果的な治療法も見つかっておらず、ただ病原体の威力を弱めることしかできないのが現状ですですが」

斎藤先生はディナちゃんを真剣な眼差しで見つめていた。

そんな、シン、と静まり返った病室で突然鳴ったのは、ぐう、という私のお腹の音でした。

響き渡ったその音が恥ずかしくて俯いた。

何でこういう時に限ってお腹の音が鳴るかな! 空気読もうか、私のお腹!

「あ、もうお昼の一時半ですね」

斎藤先生は腕時計を見て呟いた。

「お昼まだでしょう? お腹もすきますよね」

看護婦さんが優しく微笑んでくださった。

あぁ、大人だ…!

感動で目が潤む。


だってだって、絶対にウサギだったら、

『あー! 月子、お前腹鳴らしたなー!』

と騒ぎ立てるはずだ。間違いなくそうだ。

というか、昨日もそんな感じで騒ぎ立てられて恥ずかしかった。


それなのに、この方々ときたら…!

やっぱり、こういうところが子供と大人の差だよね。

感動で目が潤む中、そんなことを思った。

こういう懐の深い人間になりたいものだ。

看護婦さんが、さぁ、と声をかけてくれた。

「ディナちゃんのことも心配いりませんし、お腹もすいていらっしゃるでしょうから、是非お昼を食べてきてください。私のお勧めは病院の購買で売れている焼きそばパンですかね、あれが結構おいしいんですよ」

ふふ、と目を細めて微笑まれた。

斎藤先生も微笑みを浮かべていらっしゃる。

なんと優しい方々なんだ…!


「ありがとうございます…!」

心からの感謝とお辞儀をして、私は病室を出た。
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