天使のアリア––翼の記憶––



「やっぱり凄い…」

目の前にそびえ立つレンガ色の巨大建築物に圧倒される。

こんなに大きな病院、生まれてこの方、ここ以外に見たことがないのですが!

するとそんな私に呆れたように「何を今更圧倒されているんだ」と先輩が言った。

「この前もここに来ただろう」

はぁ、と溜息を吐いている先輩は普段通り落ち着いている。

凛とした姿が美しい。

流石、藍羅先輩。

「そ、それはそうですけど…」

「そろそろ楽屋入りの時間になる。そこで最終の打ち合わせがあるんだ、人を待たせるわけにはいかない。行くぞ」

そして、病院に入る。

相変わらず、大きなフロント。豪華すぎやしませんか…?

患者さんも、病院で働く人達も、老若男女、多くの人がいる。

「えっと、楽屋は…」

ロビー近くに設置されている病院の見取り図を見ながら二人で探していると「こんにちは」と声をかけられた。

振り返るとそこにいたのは、

「斎藤先生!」

笑顔が爽やかな斎藤先生だった。

看護婦さんたちが目をハートにして熱い視線を送っている。

無論、看護婦さん達だけではなく、一般の患者さんもそうだ。

皆さん、一旦落ち着きましょうか。

「今日は宜しくお願いします、藍羅さん」

にっこり、藍羅先輩に微笑みかける。

その笑みが悲しみを帯びているように見えて、気づく。

斎藤先生が自分の婚約者を守るためにこのような行動を取っているということを。

先輩もそのことを思い出したらしく、

「あぁ、こちらこそ」

にこっと微笑んだ。

まるで花が咲くような美しい笑み。そのせいで周りの男性たちをも魅了していることには気づいていないらしい。

「華原さんも、宜しくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

ぺこりとお辞儀した。
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