天使のアリア––翼の記憶––
「それ、おにーちゃんがもってきてくれるの!」

「お兄ちゃんって、あの写真に写っていた?」

ディナちゃんと同じ色の瞳をもつ、あの美しい黒髪の男の子?

ディナちゃんは笑顔で大きく頷いた。

「おにいちゃん、まいにちきてくれるの。それでね、きれいなおはなも、もってきてくれるの!」

「お兄ちゃんが大好きなんだな」

「うん!」

お兄さんが羨ましい。こんな可愛い子に大好きなんて言われるなんて…!

「あの写真は何だ?」

藍羅先輩が尋ねる。先輩が指を指したのは、家族写真のとなりにある、ベージュのフレームに入った写真だった。

よく見ると、雲一つなく晴れ渡った空の下、芝生の生えた広い高原に、ただ大きな木だけが写っている。凄く綺麗な写真。

「それもおにいちゃんがくれたの!」

「お兄さん、写真家なのか?」

ディナちゃんは首を横に振った。

「おにいちゃんはこうこうせいだよ。さんねんせいっていってた」

あたしと同い年だな、と藍羅先輩は微笑んだ。

「じゃあ、どうしてこの写真をディナちゃんに?」

確かに綺麗な写真ではあるけれど、これを渡す理由が分からない。

「それはね、おかあさんのくにのことばで、Tree of Life っていうきなんだって」

ディナちゃんのお母さんは英語圏だったのだろうか。もしそうであるなら、直訳してみると、命の木となる。生命樹と言ったところか。

「すごくながいきしているきで、そのきのはっぱやみきからげんきをもらえるんだって。

でも、びょういんにはかふんしょうのひとがいるかもしれないからって、しゃしんをくれたんだ」

私はもう一度その木の写真を見た。

凄く大きな、杉の木のように見える。

これが、命の木、か。

「お兄さん、優しいんだね」

ディナちゃんのために、花をもってきたり、写真を渡したり。

本当にお兄さんはディナちゃんのことが好きなんだな。


ディナちゃんはニコニコと天真爛漫な笑顔で頷いた。

けれど、ディナちゃんの顔はどこか悲しげだった。
< 149 / 351 >

この作品をシェア

pagetop