天使のアリア––翼の記憶––
「ディナちゃん…?」

声をかければ、ハッとして笑顔を取り繕う彼女。

「なあに?」

ぱっと見ただけでは誤魔化されてしまうほどの、作り笑顔。

どうして…どうして、そんな顔をするの。

「どうしたの?」

「え? なにもないよ?」

なんて、健気なんだろう。

何もない、だなんて、すぐ分かるような嘘をついて。

何が彼女にこんなことをさせるの。

なんで、彼女がこんな…

「何かあったのか?」

私の問いかけを不思議に思った先輩が尋ねる。

「ううん、なにもないよ!」

ディナちゃんはニコッと微笑んだけれど、その笑顔は痛々しくて。

見ていられない。

「ディナちゃん」

私はディナちゃんの肩をぎゅっと抱きしめた。

お願いだから、そんな辛い笑顔をしないで。

その痛みを、どうか隠さないで。

「なにもな…」

「ディナちゃんが言いたくないなら、言わなくていいよ。私も無理に聞かない。でもね、ディナちゃん。笑いたくないときに笑わないで。泣きたいときには泣いていいんだよ」

私には何も、何一つだって、人より優れているところなんてない。何の力もない、ただの落ちこぼれ夢巫女だ。

だから、せめてそばにいさせてほしい。傷を消す力はないけれど、少しだけなら和らげることができると思うから。

そうなるように、精一杯頑張るから。


「…つ、きこ、おね、ちゃん…」

絞り出されたディナちゃんの声は、

「このままできいて…?」

涙で濡れていた。


「おにいちゃんね、まいにちここにきてくれるの。でね、いっぱい、いろんなはなししてくれるの」

私はディナちゃんを抱きしめたまま、時々相槌をしながら聞いていた。

藍羅先輩は、ディナちゃんの話を聞きながら家族写真を見ている。
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