天使のアリア––翼の記憶––
目を開ければ、いつもの朝だ。

ただ、違うのは、私の視界が滲んでいることだろう。

枕が濡れている。どうやら泣いていたらしい。

なぜだろう。夢にでてくるあの声が、母の声だと分かったからだろうか。

だから、懐かしくなって、母のいない日々が寂しくなって、悲しくなって、それで泣いたのだろうか。

きっと、そうなのだろう。

バカだな、私。

今更、今更泣いたって母がかえってくることはないのだと知っているのに。

それに、母だと分かったのなら、もっと、別の言葉をかけたかった。

いろんなことを話したかった。

歌姫のことだけじゃなくて、もっともっと別の、取り留めもないような、そんなこと。

私はおばあちゃんや他の夢巫女みたいに、未来を見る力もなければ、夢を渡り歩ける力もない。

だからお母さんが私の夢に来てくれなければ、私は母と会うことができない。

もう二度と、会えないのかもしれない。

つう、と涙がこぼれ落ちる。


あぁ、朝から感傷的になりすぎている。

起きてからずっと溜息ばかりだ。

心が重たい。暗い。

自分の無力さにイライラするのもやめよう。責めたって力が増すわけでもない。

もう、仕方がないじゃないか。これが私なんだから。


気分を変えようと思って閉め切られたカーテンを開けた。

朝日が眩しい。今日は朝からこれでもか、というほど晴れている。雲一つない青空。


そうそう、昨日の病院でのコンサートは、もう大盛況だった。

ディナちゃんは寝ていたのか、来てはいないようだったけど、その後病室を訪れると、あの可愛らしい笑顔で迎え入れてくれた。本当に健気な、いい子だ。

そして今回の演奏会で知ったことは、癒し効果抜群な先輩の歌声は、患者さん達の病気にも効果があるらしいということ。

昨日家路につくとすぐに、数名の患者さんの病気の程度が軽くなった、と斎藤先生が興奮気味に知らせてくれた。

もう、あり得ない、というか、さすが、というか。

とりあえず、藍羅先輩は凄すぎる。

藍羅先輩はもう既に人知を超えていると思うのは私だけでしょうか?
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