天使のアリア––翼の記憶––


「…二人ともー、何かあったのー?」

終礼の後、遠慮がちに乙葉が尋ねる。

ウサギは終礼が終わると同時に部活へと行ってしまったようだ。

乙葉が言った二人とは、私とウサギのこと。

あれから私とウサギは一切話していない。

それが奇妙に見えたのか、乙葉に心配をかけてしまった。

「あ、あははは」

なんて笑ってみても、乙葉を誤魔化せるはずもなくて、更に暗い顔をさせるだけだった。

うまく、いかない。

全てのことが、うまくいかないんだ。

あぁ、私はなんであんなにイライラしていたんだろう。別に怒るほどのことでもなかったのに。

自分が乙葉達と比べられるほど美しいわけじゃないことはよくよく理解していたのに。

どうして、なんだろう…

「月子ー、今日は藍羅先輩と練習はあるのー?」

私は首を横に振った。

今日は藍羅先輩は学校を休んでいる。というのも、授業の一環でグループ製作したレポートがかなり優秀だったらしく、それを「全国高等学校研究成果発表会」という全国規模の大会で発表することになったらしい。やはり藍羅先輩は完璧なお方だと思う。

「そうなんだー!すごいねー!」

そのことを話せば、乙葉も目をキラキラさせていた。やっぱり乙葉には笑顔が似合う。

「じゃあー、これから暇ー?」

「家に帰って練習するだけだよ」

先輩がいないのなら音楽室をわざわざ借りて練習する必要もない。

「一緒に帰ろー?」

「え、嬉しいけど、乙葉は部活じゃないの?」

乙葉は美術部の部長さんだ。サボるわけにはいかないだろう。

「今日は顧問の先生もいないしー、大会もしばらくないから休みなんだー」

ふんわりした笑顔。私の癒しだ。

そして帰ることになった。





まだ明るいオレンジの夕陽が、紺色のアスファルトを照らす。

まだまだ陽は高く、私達の並んだ二つの影も短い。

「一体何があったのー?ウサギと月子がー、あんなに仲が悪くなるなんてー、相当なことがあったんでしょー?」
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