天使のアリア––翼の記憶––
「あはは、ちょっとね。でも、大丈夫。心配しないで」

すぐに仲直りできるから、と私が笑うと、乙葉はやはり哀しい顔をした。

「なんで、そんな顔するの…? どうしたの? 何かあったの?」

すると乙葉はしばらくの沈黙の後、重たい口を開いた。

「…心配するに、決まってるでしょー? 二人とも、大事な幼馴染なんだよー? 心配しないで、なんてー、そんなの無理に決まってるんだからー!」

乙葉は少し怒っていた。

「ごめん…でも、すぐに仲直りするから。約束するから!」

だから、と私が言うと、乙葉は少し眉を下げて笑ってくれた。

「本当だよー? 約束だからねー?」

うん、と私は笑って見せた。

乙葉も先ほどよりは明るい笑顔を見せてくれたが、やはりどこか陰りのあるものだった。

「乙葉、どうしたの? 何か辛いことがあるの? 今日もそんな辛そうな顔してたよ。何があったの?」

どうしてそんな辛そうな顔をするの。

その胸に何を抱えているの。

どんな辛いことがあったの。

私に教えてほしい。

私にできることならなんだってするから。


私が問い詰めると、「えー? 何もないよー?」とふんわりと笑った。

それは、誰が見たって分かる、いたみを隠した笑顔で。

「乙葉! 私を一体誰だと思ってるの!? 私は乙葉の幼馴染だよ? 乙葉の親友だよ? そんなの、すぐに嘘だって分かるんだから!」

なんでもいい。

私に話してほしい。

私を頼ってほしい。

「月子…」

「乙葉が思ってくれるように、私も乙葉のこと、大事な存在だと思ってる。私は乙葉がいないとダメなんだもん」

乙葉がいないと、私は私でいられない。

乙葉がいないと、私は狂ってしまう。

そのゆるさも、ふんわりした笑顔も、優しい言葉も、時々の厳しさも、全て。

乙葉がいてくれるから、私も私でいられるんだ。

「だから、一人で全てを背負わないでほしい。乙葉が苦しいのなら、私も一緒にその苦しみを背負いたい。一人で辛いなら、いつまでもそばにいてあげる。
私は、一人で苦しんでいる乙葉を見たくないの」

辛いなら、全て話して。

私にできることなら、何だってする。

何だって、するから……
< 163 / 351 >

この作品をシェア

pagetop