天使のアリア––翼の記憶––
「ていうか、乙葉、頭をどこかにぶつけたりしなかった?」

すごく心配だ。

私が、この私が魅力的だなんて言うくらいだ、どこかでこけてしまったのかもしれない。

「えー? ぶつけてなんかないよー?」

のほほんと答える乙葉の笑顔はマイナスイオンでも出ているのではないかと思ってしまう。

「じゃあ、気を遣ってくれてるの?」

私が真面目な顔で聞いてみると、ふふっと素敵な笑顔をくれた。

「そんなわけないでしょー!」

取り留めもないような話をして二人で笑って夕日を背に歩く。

夕日に照らされてアスファルトにできた二つの影法師は私たちよりずっと背が高く、まるで月も星もない夜空のような色をしていた。

そうして家路についた頃には、もう空は赤みを帯びたオレンジに染まっており、赤く色づいた夕日は沈みかけていた。

西の空には、もう闇が迫っていた。今からそう時間が立たないうちに、その闇が太陽を包み込んで隠してしまう。

空が闇に覆われてしまう。
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