天使のアリア––翼の記憶––
07 感情
『つきこ』
今よりずっと幼い姿のウサギが、乙葉が、私に笑いかける。
目を細め、その白い歯を見せて。
今と何ら変わらない、見ているこちらまで元気にしてくれるような笑顔で。
ウサギは、私が物心ついたときにはもうそばにいた、まるで兄弟のような存在だ。
だから、ウサギが私にとってどういう存在かなんて、何と表現するのが正しいのかよく分からないけれど、でも確かに言えることは、友達よりもずっと大切な存在であるということ。
それは乙葉にも言えることなんだけどね。
私達は幼い時からずっと3人で過ごしてきた。皆一人っ子だったし、家が近所ということもあったけれど、それを差し引いてもとても仲が良かった。
家族にも言われた。
『あんたたちは兄弟みたいだねぇ』
おばあちゃんがよく目を細めて言っていたのを覚えてる。
そう言われると、すごくすごく嬉しかったから。
そりゃ勿論、喧嘩だってした。
と言っても、私とウサギだけなんだけど。
『ばかつきこ!』
『ばかはウサギでしょ!?』
けれど、そうやって喧嘩する私とウサギを止めるのは、
『ふたりともー! けんかはやめなよー!』
やっぱり、いつの時も乙葉だった。
ウサギと私が喧嘩して、乙葉が仲裁する。
それがいつものパターンだった。
この頃の関係のまま私達は成長して、幼稚園に入って、小学生になって、中学生になって、今年は高校生になった。
私にとってウサギと乙葉は、まるで家族のように大切な存在で。
もし彼らが私の傍から離れていってしまったら、私は私でいられなくなる。平常心でなんていられない。
それくらい、彼らのことが大好きだから。
本当に、本当に大切な存在だから。
そばにいて、と。
離れて行かないで、と強くそう思うの。
遠くにいる、今よりずっと幼いウサギと乙葉が私に笑いかける。
今も変わらない、その屈託のない笑顔で。
私に手を振る。
その姿があまりにも儚いから、こんなにも変なことを考えてしまう。
『私達はいつまでこのままの関係でいられるのだろう』
確かな絆が、今もここにあるはずなのに。