天使のアリア––翼の記憶––
ウサギを避けるなんて、そんなことはしてはいけない。していいはずがないのだ。

だって、ウサギは自分の気持ちを教えてくれただけなのだから。

ウサギに悪いところなんて、どこにもない。

どこにもないのだ。


それに、今すぐ答えを出す必要はないはずだ。

だって、ウサギは、いつまでも待っていると言ってくれた。

だから今はその言葉に少し甘えることにしよう。

ウサギの気持ちに応えられるのか。

それはこれからゆっくり考えればいい。

元々、私は藍羅先輩みたいに頭がいいわけじゃないんだから、すぐに答えが出るわけがないのだ。

うんうんと頷いて、けれど疑問が産まれた。


藍羅先輩はすごく頭がいいのに鈍感だよね?

鈍感すぎるくらい、鈍感だよね?

あの、デューク先輩を前にしたときの藍羅先輩の真っ赤な顔。

いつもは冷静で綺麗でカッコイイ藍羅先輩の、ツンデレ具合。

誰だって分かってしまうほどの分かりやすい態度をしているのに、本人だけはその気持ちに気づいていないところなんて、もう。

あまりにも、鈍感すぎる。


そんなことを思って、思わず笑いそうになってしまった。

『可愛くて、仕方がない』

いつもそう言っている、デューク先輩の気持ちがよく分かる。

けれどデューク先輩が藍羅先輩に可愛いって言うと、いっつも藍羅先輩は顔を真っ赤にしているんだよね。

本当に、絵にかいたようなバカップルだ。


何とか笑いを堪えて深呼吸すると、少しだけ心が軽くなった。


大丈夫。

ちゃんと、笑える。

きっと、いつもの私でいられる。


不意にチャイムの音が鳴り響く。

ガラッと扉の開く大きな音と共に担任が入ってきた。

「朝礼を始める」

「起立ー」

学級委員の声と共に、みんなが一斉に席を立つ。

「おはよーございます」

いつもは曖昧に誤魔化している挨拶も、今日はきちんと言葉にした。


さあ、今日も一日が始まる。
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