天使のアリア––翼の記憶––
内と外を隔てる扉に手をかけた。そこで立ち止まり、大きく深呼吸をする。

数回繰り返すと、ようやく私は決意を固めた。


扉の、向こうへ。

ゆっくりと外へ踏み出した。


同時に更なる罪悪感が湧き出してくる。

胸が苦しくなって思わず見上げれば、空の色は相変わらずの梅雨の深い灰色だけど、雲の切れ間からは確かに夏の青空が見えた。


透明感を増した 鮮やかな 青。


もうじき梅雨の季節も過ぎ去り、爽やかで鮮やかな夏がやってくる。

ジメジメとした陰湿な空気を連れ去ってくれる、夏が。


目を細めていると、雲の切れ間から光が射しているのが分かった。

厚い雲のところどころから降り注ぐ黄金にも似た光が、罪を犯そうとする私の心に突き刺さる。

これから罪を犯そうとする私を引き留めるように、咎めるように。

私の心に、強く、深く、鋭く。


私は降り注ぐ穏やかな黄金をじっと見つめた。


それでも、私は。

誰に何を言われようと、私は。


私は、決意を変えない。


それに、今決意を変えても、どんなに回避しようとしても、意味はない。

結局は私が罪を犯してしまうことに変わりはないのだから。


今罪を犯さなくても、私はまたいつか同じ罪を犯す。


そしてそれは今回よりもっと罪深い。


私は一歩、足を踏み出した。


本当に、私は罪深い。

その罪を許してもらおうだとか、そんな甘いことは考えていない。

けれど、彼に嘘をつかないでいうようと思った。

本当は傷つけるなんてそんなこと、絶対にしたくないけれど、でも、きっと彼なら嘘を言われたことの方が傷つくと思う。

それに、自分の気持ちをちゃんと伝えてくれたあの人に嘘をつくことは、それこそ大罪のように思えて、私にはどうしてもそれだけはできないと、したくないと思った。


彼には、正直でありたい。


そのために彼が傷つくのだとしても。


これがいちばん最善の選択だと、信じてる。


…決して正しくはないかもしれないけれど。



深呼吸をして、前を見据える。



私は今から、罪を犯す。


私の大事な居場所を、


支えられてきた暖かみを、


誰よりも優しくて、あの人の心を





___破壊する。






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