天使のアリア––翼の記憶––
*
「ウサギ!」
拳を握りしめて、見慣れたその背中に呼びかける。
風が吹き、自販機前の広場の向こうに植えられている木々がザワザワと揺れる。
驚いたように振り返ったウサギは、「何だよ」と笑顔を見せた。
ドクンドクン、と心臓が高鳴る。
それは決して甘くはなくて、
「ウサギ…」
罪に塗(まみ)れた、苦いもの。
心臓が壊れそうなくらいに苦しくて、胸を刺すような鋭い罪悪感を伴った、痛み。
あぁ、今すぐ、この場から逃げたい。
逃げ出してしまいたい。
こんな痛みや苦しみなんて、今すぐ放り投げて、家に帰って、日が暮れるまで、心赴くままにピアノを弾き続けていたい。
こんな痛みも苦しみも、最初からなかったことにしてしまいたい。
あぁ、今すぐ過去に戻れるなら、私はこの悲しみを、苦しみを、発生させるもの全て、この手で破壊したい。
ウサギの優しい顔を見ていると、そんな都合の良い、甘ったるい思いに取り憑かれるけれど、良心がそれを拒む。
どんなに逃げ出したくても、逃げることはできない。
私はこの痛みから逃げることはできない。
逃げることは、絶対に許されない。
なぜならこの痛みは、
今から犯す罪の償いの一つなのだから。
「あのね、ウサギ……」
優しい顔をしている彼にこれから送る残酷な言の葉とウサギの傷ついた顔を想像すると、それを声に乗せるのは躊躇われた。
けれど、伝えなければならないという使命感が私の声帯を震わせる。
「…私は、ウサギのこと、好きだよ」
ウサギは先ほどまでと変わらない柔らかな表情のまま、私を見守ってくれている。
きっとウサギはこれから私が何を言おうとしているのか、分かっているんだ。
それでも、こんなに優しい顔をしてくれているのだから、ウサギは本当に。
本当に。
…優しすぎるよ、ばか。
「ウサギ!」
拳を握りしめて、見慣れたその背中に呼びかける。
風が吹き、自販機前の広場の向こうに植えられている木々がザワザワと揺れる。
驚いたように振り返ったウサギは、「何だよ」と笑顔を見せた。
ドクンドクン、と心臓が高鳴る。
それは決して甘くはなくて、
「ウサギ…」
罪に塗(まみ)れた、苦いもの。
心臓が壊れそうなくらいに苦しくて、胸を刺すような鋭い罪悪感を伴った、痛み。
あぁ、今すぐ、この場から逃げたい。
逃げ出してしまいたい。
こんな痛みや苦しみなんて、今すぐ放り投げて、家に帰って、日が暮れるまで、心赴くままにピアノを弾き続けていたい。
こんな痛みも苦しみも、最初からなかったことにしてしまいたい。
あぁ、今すぐ過去に戻れるなら、私はこの悲しみを、苦しみを、発生させるもの全て、この手で破壊したい。
ウサギの優しい顔を見ていると、そんな都合の良い、甘ったるい思いに取り憑かれるけれど、良心がそれを拒む。
どんなに逃げ出したくても、逃げることはできない。
私はこの痛みから逃げることはできない。
逃げることは、絶対に許されない。
なぜならこの痛みは、
今から犯す罪の償いの一つなのだから。
「あのね、ウサギ……」
優しい顔をしている彼にこれから送る残酷な言の葉とウサギの傷ついた顔を想像すると、それを声に乗せるのは躊躇われた。
けれど、伝えなければならないという使命感が私の声帯を震わせる。
「…私は、ウサギのこと、好きだよ」
ウサギは先ほどまでと変わらない柔らかな表情のまま、私を見守ってくれている。
きっとウサギはこれから私が何を言おうとしているのか、分かっているんだ。
それでも、こんなに優しい顔をしてくれているのだから、ウサギは本当に。
本当に。
…優しすぎるよ、ばか。