天使のアリア––翼の記憶––
あぁ、分かってる。

分かってるよ。

今、涙を堪えていることも、それを隠すために無理矢理笑顔を顔に貼り付けていることも。

全部、全部分かってるよ。

私とウサギは、物心の付く前の幼い頃からずっと一緒に過ごしていたから。


誰よりもずっと、近くにいたから。


「でも、もし月子と付き合えたら、きっと俺のことをそういう意味で好きになってくれるんじゃないかって思ってたんだけど」


ウサギは穏やかな笑顔を浮かべているけれど、その目だけは笑っておらず、その瞳には苦しみと悲しみだけを映している。


どくんどくん、と心臓が音を立てて心拍する。

苦しく、痛いほどに。



「……俺の勘違いだったな」


優しい口調に、笑顔に、冷や汗が流れる。


やめて。

そんな顔をして笑わないで。

苦しみを押し殺したような笑顔なんて、そんなの、見せないで。

そんな顔しないでよ。


罪悪感が押し寄せ、息が止まりそうになるほど胸が痛い。心が、苦しい。


「…ウサギ…」


私はそれ以上何も言えなかった。


そんな痛々しい笑顔を作らせている原因は、何者でもない、この私だというのに。


いや、だからこそ、言えなかった。


今の私にはウサギを慰めることはできないし、その資格すらない。


私は、罪人なのだ。


いつも助けてくれた誰よりも優しいウサギの心を、たった今、傷つけた。

他のどんな言葉よりも残酷な言葉で、傷つけたのだ。

私は、こんなことを言えば傷つくと分かっていて、それでも言ったのだ。



私は、性質の悪い確信犯だ。


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