天使のアリア––翼の記憶––
「ありがとう。だが、そのためにはどの曲かをやめなければならないんだよな。公演時間のこともあるし。だから月子に相談しようと思って」

そうだったんですか、と私は納得した。

「昼休みと言っても時間は少ない。まずはどの曲をやめるか決めることが先決だな。練習はその後、時間があればやることにしよう」

「そうですね。ちょっと待ってください、今コンサートでする曲をまとめた紙を出しますね!」

楽譜に挟んでいた紙を取り出し、先輩に手渡す。私の手描きだ。

「ありがとう」

そう言って微笑んだ先輩の笑顔は、綺麗で、可憐で、夏の青みたいに透き通った色をしていた。

それはまるで私の心に鎮座する、あの鈍い色をした重たい感情さえ薄れさせるようだった。

心の重量が少し軽くなるような感覚を覚えた。


「いえ、後輩の務めですから」


ふと浮かんだ言葉をかき消すように、私はそう言って少し笑った。


本当は別の言葉を言いたかった。

言いたくて、でも、言えなかった。

絶対に言ってはいけないと思った。


"心を軽くしてくれてありがとう"


そんな言葉、どの口が言えるの。


そんな言葉、私なんかが言っていいと思ってるの。


幼馴染を傷つけた、この私が。



また私の心を罪悪感が占拠する。

自業自得だと自分でも思う。

でもそう思う心のどこかで、叫んでる。


助けて、と。


苦しみから逃れたいと切望している心に気づいているけれど、私はその上で無視する。

私は私を助けるわけにはいかない。


私はまだ、私を許してはいけない。




あの時のウサギの笑顔が脳裏を過り、胸を痛いほど締め付ける。



私は許されてはいけない。


私はウサギを傷つけた、罪人、なのだから。


< 248 / 351 >

この作品をシェア

pagetop