天使のアリア––翼の記憶––
*
そのまま、罪悪感に苛まれて放課後になった。
今日の授業は7限まであって、午後の授業は体育、芸術、学年集会と、数学や英語などの授業に比べて頭を使わなくて済む授業だった。
ノートを取らなくて済むのも、とてもありがたかった。文字なんてとても書けなかったからだ。腕に力が入らなくて、持ったペンはするりと手の内から滑ってノートの上に落ちてしまう。
昼休みから私を襲う罪悪感と自己嫌悪が私を無気力にさせる。
そんな無気力のまま授業は終わり、帰りのホームルームまで終わってしまった。
さようなら、と挨拶をしても、ぼうっと心が重たい。
溜息をついていると、月子ー、と乙葉が私を呼んだ。
「何?」
パッと笑顔を張り付けて振り返るとそこに乙葉の笑顔はなかった。とても厳しい目で私を見ている。
心なしか、私を呼んだ声もいつもより低いような気がした。気のせいなのかもしれないけど、でも、否定はできない。
確実に、いつもと違う。
「ど、どうしたの? 何かあったの?」
そう問いかけても答えはないまま、乙葉は私の手を掴んだ。
「なんかねー、私喉渇いちゃったんだよねー。今からジュース買いに行こうと思うんだけどー、ついてきてー?」
「え、ちょ、いいけど、ちょ、待って、
乙葉?」
乙葉の様子が、可笑しい。
けれど、私に何か話したいことがあるんだなということは、何となく分かった。
今、この時間帯、ジュースが売れている自動販売機前のあの空間は、大方人がいない。
誰にも聞かれたくない話をするには、もってこいの場所だ。
自販機前の広場に着くまでの数分間、乙葉は一言も話さなかった。
自販機前の広場に着くと、案の定人はいなかった。
辺りを見渡しても誰もおらず、遠くから部活動に勤しむ声だけが聞こえてくる。
乙葉は黙ったままだったが、なんだかお互い何も話さないでいるのも気まずくて、私は空気を変えようと話した。
「お、乙葉、ジュース、どれを買う? この炭酸なんておいしそうだね!」
今日入荷したばかりだって!と、レモン味の炭酸飲料の爽やかなパッケージを指さしながら私は笑った。
けれど乙葉はジュースには目もくれず、厳しい顔で私を見ている。
冷や汗が、流れ落ちる。
乙葉は何を言い出すつもりだろうか。
しばらくの沈黙の後で、乙葉は言った。
「…聞いたよ、ウサギから」
その瞬間、ドクンと罪悪感が鼓動した。
ウサギ、という単語を聞いて、乙葉が私に何を言いたいのか分かった。
例え会話文に主語が無くても、私達には伝わる。主語どころか、会話がなくてもある程度のことは通じ合えるだろう。
私達は、幼馴染だから。
そのまま、罪悪感に苛まれて放課後になった。
今日の授業は7限まであって、午後の授業は体育、芸術、学年集会と、数学や英語などの授業に比べて頭を使わなくて済む授業だった。
ノートを取らなくて済むのも、とてもありがたかった。文字なんてとても書けなかったからだ。腕に力が入らなくて、持ったペンはするりと手の内から滑ってノートの上に落ちてしまう。
昼休みから私を襲う罪悪感と自己嫌悪が私を無気力にさせる。
そんな無気力のまま授業は終わり、帰りのホームルームまで終わってしまった。
さようなら、と挨拶をしても、ぼうっと心が重たい。
溜息をついていると、月子ー、と乙葉が私を呼んだ。
「何?」
パッと笑顔を張り付けて振り返るとそこに乙葉の笑顔はなかった。とても厳しい目で私を見ている。
心なしか、私を呼んだ声もいつもより低いような気がした。気のせいなのかもしれないけど、でも、否定はできない。
確実に、いつもと違う。
「ど、どうしたの? 何かあったの?」
そう問いかけても答えはないまま、乙葉は私の手を掴んだ。
「なんかねー、私喉渇いちゃったんだよねー。今からジュース買いに行こうと思うんだけどー、ついてきてー?」
「え、ちょ、いいけど、ちょ、待って、
乙葉?」
乙葉の様子が、可笑しい。
けれど、私に何か話したいことがあるんだなということは、何となく分かった。
今、この時間帯、ジュースが売れている自動販売機前のあの空間は、大方人がいない。
誰にも聞かれたくない話をするには、もってこいの場所だ。
自販機前の広場に着くまでの数分間、乙葉は一言も話さなかった。
自販機前の広場に着くと、案の定人はいなかった。
辺りを見渡しても誰もおらず、遠くから部活動に勤しむ声だけが聞こえてくる。
乙葉は黙ったままだったが、なんだかお互い何も話さないでいるのも気まずくて、私は空気を変えようと話した。
「お、乙葉、ジュース、どれを買う? この炭酸なんておいしそうだね!」
今日入荷したばかりだって!と、レモン味の炭酸飲料の爽やかなパッケージを指さしながら私は笑った。
けれど乙葉はジュースには目もくれず、厳しい顔で私を見ている。
冷や汗が、流れ落ちる。
乙葉は何を言い出すつもりだろうか。
しばらくの沈黙の後で、乙葉は言った。
「…聞いたよ、ウサギから」
その瞬間、ドクンと罪悪感が鼓動した。
ウサギ、という単語を聞いて、乙葉が私に何を言いたいのか分かった。
例え会話文に主語が無くても、私達には伝わる。主語どころか、会話がなくてもある程度のことは通じ合えるだろう。
私達は、幼馴染だから。