天使のアリア––翼の記憶––
「で、天使がでてきたのかい?」

子供の面白い作り話を聞くような表情をしているおばあちゃん。これは作り話ではなく、歴とした夢の話なのだけれどね。


「そう天使。最初はただの夢だと思ったんだけど、何だか訴えかけるような夢でさ。」

「どんな夢だったんだい?」

何だかおばあちゃんは興味津々だ。話したがっている私に合わせてくれているんじゃなくて、本当に聞きたいようだ。


「うーんとね…女の子から翼が生えていて空へ飛んでいこうとするんだけど、それを男の子が引き留めようとする夢。だけど男の子の願いは叶わずにその女の子は空へ飛んでいく、というものだったよ。」

あの時の男の子の表情があまりに悲痛だったことを思い出して、また胸が痛む。あんな事が正夢にならなければいいのだけど。


「本当に、そんな夢を見たのかい?」

おばあちゃんは少し戸惑っているようだ。


「うん。」


頷いた。なぜそんなことをなぜ聞くのか。

しかしおばあちゃんはというと、


「そうかい。そんな夢を見たのかい。」

優しく目を細めた。

その細めて殆ど見えなくなったその瞳に少し戸惑いを宿しているように見えたのは、私の見間違いかもしれないけれど。


「それ以外は何かなかったのかい?」

「それ以外…?あ、でも、少しだけ…」

「少しだけ?」

「少しだけ、歌が聞こえたかな…」

微かであまり聞こえなかったけれど

「女の子が歌った、綺麗な歌。なんとも言えないような歌なんだけれど、とても綺麗な歌声だったな…」


思い出そうとしても、なかなか思い出せない。それほどに私の記憶力は衰えているのだろうか。まだ高校1年生だ、衰えていることを認めたくはない。


「歌を、歌っていたのかい…?その天使が…?」

「そうだよ、綺麗な歌だったな…もう一度、聞きたいな…」


「…そう、かい…」

明らかに様子がおかしい。この世の終わり、とでも言うような表情をしている。私の見た夢の話をしただけなのに。ただの夢の話なのに。
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