天使のアリア––翼の記憶––
「どうして、どうしてそんな言い方をしたの!?

好きだけど、なんてそんな言い方をして、ウサギが傷つくって思わなかったの!?」


思ったよ、と私は大きな声で反論した。


「絶対傷つくって分かってたよ! だからこれを言うこと、すごく悩んだよ!

でもね、それでも、嘘はつけなかった。ウサギには、本当のことを言わないと失礼だって思ったから…」


「だけどウサギは傷ついたじゃない!
 
それが正しかったなんて、私には思えない!

それに、どうしてウサギを傷つけると分かっていてそんな行動ができるの?! ウサギなら傷ついても平気だとでも思ったの!?」


「そういうわけじゃないよ!」


「じゃあ、どうして!?」


言葉が詰まった。

何も言えなかった。


ウサギを傷つけたくない。


それが本心だった。


だけど、傷つけても本当のことを言うべきだと思った。


そうすれば、いちばんウサギを傷つけなくて済むと思ったから。


自分に気持ちを打ち明けてくれた人に嘘をつかないこと。


それが礼儀だと信じていた。

この選択が最善だと信じていた。


けれど、やはり、それは間違いだったのかもしれない。

だって、ウサギが傷ついた。

乙葉が今、目の前で泣いている。

こんなにも、こんなにも私の大事な幼馴染たちが傷ついている。


私の選んだ答えは、正解ではなかった。

正解では、なかったんだ。



じゃあ、私は何を選べば正解だった?


どんな選択を選べば、ウサギも乙葉も、私の大切な人達みんなが笑っていられた?



「ウサギに失礼だなんて言って、結局は月子、自分のためじゃない!

自分が嘘をつくような悪人にならないために言ったんでしょう?!

ウサギの気持ちを無視して!」


「ウサギの気持ちを無視したわけじゃないよ!」


無視したわけじゃない。

そうじゃないけど…


「けれど結局そういう形になってしまったのは事実じゃない!」


乙葉の言葉が正しかった。

私もそう思った。どういう経緯であれ、結局はウサギを傷つけてしまった、そのことに変わりはないから。


心の中で罪悪感が増幅して私の良心を締め上げている。

苦しくて、苦しくて、今すぐに謝りたかった。

けれど謝ったところで済むような、そんな簡単なことではないと直ぐに気づく。

謝ったところで、ウサギの心は、乙葉の心は、傷ついたままだ。

それに何に対して謝ったら良いのかも分からなかった。


傷つけたことが分かっているのに、何もできないなんて。

償う方法さえ、分からないなんて。


私はなんて愚かで、罪深いのだろう。


大事な2人の幼馴染を傷つけた罪の大きさを思い知らされた。


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