天使のアリア––翼の記憶––
「若旦那派はどんな感じなんですかー?」

乙葉が質問する。

「若旦那派は旦那派よりは穏やかよ。武力というか、武器なんかには興味を持たない。
彼らは彼ら自身の力をいちばん信じているから」

「彼ら自身の力?」

私は思わず聞き返した。

「言ったでしょう。竹取会は社会から追いやられた人々で結成された組織だと。
その中にエスパーも存在しているの。組織の中には複数人のエスパーが所属しているのよ。
そして彼らは若旦那と呼ばれる人物に付き従う」

「若旦那に? どうしてですか?」

七星先輩は重々しい口調で言った。

「…その若旦那がエスパーだからよ。それも凄腕の、ね」

「…しかも、高校生」

ボソッと北斗先輩が呟いた。

「先輩達は若旦那さんも知ってるんですか!?」

先輩達はハッと黙ってしまったが、私は構わず言った。

「教えてください、先輩!」

隣にいたウサギと乙葉が頭を下げる。

「俺からも頼みます」

「私達に教えてください」

私は一歩近づいて懇願するように言った。

「知っているなら教えてください! 私達は仲間だって、先輩達もそう言ってたでしょう? 仲間同士で隠し事は良くないです! それとも先輩達は私達がそんなに信じられませんか?」

「…そういうわけじゃない」

「それは決して違うわ」

次の言葉を言いかけた七星先輩を遮るように私は大声で言った。

「竹取会の若旦那は誰なんですか?」

双子の先輩は困った顔をして顔を見合わせ、はぁ、と溜息をついた。

「…分かったわ、教えてあげる」

ありがとうございますと3人声を合わせた。

「でも誰にも話さないと約束してくれる?」

人差し指を立てて言った先輩に、はーいと大きな返事をした。

七星先輩は気が進まないといった口調で言った。

「…竹取会の若旦那、それは…」



「皆、こんなところで何してるの?」



七星先輩ではない声が聞こえた。

急いで振り返るとそこにいたのは、見覚えのある人物だった。

「デューク先輩!」

思わず大きな声を出してしまった。


「…どうして、ここに」

七星先輩が呟いた。


「あれ、月子ちゃんたちもいるんだね。何、俺だけ仲間外れなの?」

酷いなー、とデューク先輩は眉を下げて苦笑いした。

「…よく、ここに来れたわね」

七星先輩は皮肉っぽく言った。

「…どういう意味かな?」

「………よくもまぁ、部活の練習を抜けてこんなところにいられるわねって意味よ」

それぞれが話す時、少しだけ緊張感のある間があいて、心臓がどくどくと心拍した。

デューク先輩は笑っているが、七星先輩は鋭い目でデューク先輩を見ている。

どうして七星先輩がそんな目で見るのか、私は不思議でしかたなかったが、次の言葉でそれは解決する。

「…今日は自主練習の日だったでしょう? けれど貴方は部活のエース。抜け駆けは許されないはずだわ。それなのに部活を抜け出すなんて、部長の許可がなければそんなことは許されない。それなのに、よくあの堅物部長が許可したわね、エースである貴方が練習を抜けることを」

「先生に用事があるんだと言えば簡単に許してくれたよ。まぁ、早く用事を済ませて一刻も早く練習に戻れとも言われたけれどね。全く、厳しい部長だよ」

参ったよ、とデューク先輩は苦笑いして後ろ髪をかいた。


「それで、こんなところでみんなそろって何の話をしていたの?」


そう言ってニコニコと笑うものだから、皆言葉を失ってしまう。

何の話って、そりゃ、歌姫や竹取会の話だけど、流石にそれを言うわけにはいかないし。
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