天使のアリア––翼の記憶––
「何の話をしていたのか、なんて、貴方なら聞かなくたって簡単に分かるはずではないからしら?」

「ハハ。七星、そんな怒った顔してると怖いよ?」

もっとニコニコしなよ、とデューク先輩は爽やかに笑ったが、七星先輩は決して笑い返すことはなかった。

「あら、どこが怖いのかしら?」

「気づいていないところも恐ろしいね」

恐ろしいと言いながら笑顔を浮かべているデューク先輩の笑顔も相当恐ろしいと思う。

「…デューク、どうやらあなたは私を怒らせたいようね。それとも、子供のように夕飯抜きと言われたいのかしら?」

眉をひそめた七星先輩に、それは困るな、と言ってデューク先輩はまた笑った。

「これ以上いると余計に七星を怒らせてしまいそうだから俺はもう行くよ」

部長も怒らせてしまいそうだしね、と付け加えた。

「じゃあね」

そう言ってヒラヒラと手を振りながら彼は去って行った。


「…何だったんだろう…」

彼がいなくなった場所を見ながらそう呟いた。

「すごく不思議な人だよな…」

ウサギの呟きに私は頷いた。


すると七星先輩は手を叩いた。


「さあ、もう話は終わりね」


私も部活に顔をださなくちゃ、と七星先輩は何か呪文のような物を口にして杖を振り上げる。

同時に私達がいた空間の上方からキラキラと光りながら透明の何かが降ってきた。

それはまるで流れ星のようで、とても綺麗だった。


「お、終わりってどういうことですか!?」

私の問いかけに七星先輩は微笑んだ。

「今日のところはお開きにしましょう? それでいいわよね、ウサギ君?」

ウサギは仕方なく頷いていた。

「というか、俺に意見を聞かなくたって先輩はそのつもりなんでしょう? それに先輩達の結界が解けた今、あんな危険な会話なんてできませんよ」

「どこで誰が聞いているか分かんないもんねー」

乙葉も頷いていた。

「じゃあ、また会いましょうね」

そう言って先輩二人は踵を返した。

数歩歩いたところで、そうそう、と言って七星先輩は振り返った。


「今までのこと全てここだけの秘密ね」


七星先輩はウィンクをして、北斗先輩は、はぁ、と溜息をついて、その場を後にした。

残された私達は呆然としていたが、ウサギと乙葉は部活のことを思い出してそれぞれ部室に戻ったのだった。

「ほんと、不思議な先輩…」

私はそっと呟いて、私はプリントを抱えたまま教室に向かった。
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