天使のアリア––翼の記憶––
「ゲームセット!2組内野4人、4組内野6人。よって勝者は4組!」



負 け た



絶望感で打ちひしがれる我らが2組女子ドッジボールチーム。


「わぁぁあああああ!」

4組女子と彼女らを称える歓声が体育館を駆け巡る。


「いや、私達だって頑張ったよ」

我らがリーダーはそう声をかけてくれた。

「だよね!」

「4組女子に、こんなに僅差な勝負ができたんだもんね!」

そうやって早く切り替えれるところが、このチームの素晴らしいところだと思う。


試合終わりに礼をして、観客席へとそれぞれ戻る。

「お疲れ、月子ー」

ニコニコ笑顔で迎え入れてくれた乙葉。

差し出してくれたタオルを取って、隣に座った。

「ほんとに疲れた」

「4組強かったもんねー」

「ドッジボールっていうか、あれ、最早戦場だからね」

はぁ、と溜息を吐いた。


今は全校球技大会の真っ最中。

私は先ほど強豪と言われる4組女子とドッジボールの試合をしていたのだ。

先ほどの文章、『こちらのセカイ』を『内野』、『あちらのセカイ』を『外野』に置き換えて読んでいただくと分かりやすいかと思う。

ドッジボールなんて小学生がするようなものだと思っていたのだが、ルールがとても分かりやすいこともあって、今回この球技大会の種目に起用されているのだと体育委員会の生徒が言っていた。

ちなみに奴ら__4組女子が持っていたものは、ドッジボールの試合で使用していたハンドボール程の大きさの固いボールである。当たるとかなり痛い。


とりあえず4組女子は強いのだ。運動部の塊なのだ。

我々2組女子は心優しき文化部生徒の集まりだというのに、奴らは本気を出していた。

まず、本気度が違うのだ。あっちは命をかけてやっていると思われる。目が本気なのだ。殺気さえ感じるほどなのだ。全く、恐ろしいったらない。

「この地上に、球技ほど危険なものはないと思う」


真顔で乙葉に訴えると、


「そんなに言うほどー? 大袈裟だよー」


と大爆笑された。

彼女は分かっていないのだ、私が体育の中で最も苦手としている球技に対する恐怖心が。

大袈裟じゃないよと私は反論した。

「頭上でボールが行き交うことのどこが恐ろしくないのか、逆に聞きたいくらいだよ」

もしボールが頭に当たったりしたら、脳震盪…?それとも、打撲…?

否、そんなので済むのか?

死が待っているんじゃ…

あぁ、考えただけで恐ろしい。

私は身震いした。

「月子、もう、それ以上喋らないで、笑い過ぎでお腹痛くなるー!」

乙葉は目に涙を溜め、お腹を抱えて笑いだした。

運動神経抜群な乙葉に言ったのが間違いだった。

文化部生徒に言えばきっと共感してくれただろうに。

まぁ、また後で共に4組女子と戦った我らが同士(チームメイト)と分かち合うさ。

そう思って、今もなお笑い続ける乙葉を横目に溜息をついた。

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