天使のアリア––翼の記憶––
「月子はもうこれで試合は終わりー?」

「いや、午前中にもう一回あったよ。お昼前だったかな。それで終わりだね」

次に試合するところは優しい文化部が集まった素敵なチームなので、先ほどのような戦場にはならないと信じている。

「そう言えば、乙葉はバスケに出るんだったっけ?」

文化部である美術部の部長のくせに運動神経がいい彼女は、こういうとき本当に重宝される存在である。

「ん、そうだよー」

「試合、いつ?」

「えっと、午前中だったのは覚えてるんだけどねー・・・」

そう言って乙葉はパンフレットを手に取った。

各試合の試合開始予定時刻表が書かれているページを見た彼女は、あ、と声を上げた。

そうして眉をひそめた。

「ど、どうしたの?」

そう声をかけると、乙葉は私の方を見て、今度は泣きそうな顔をした。

「私の試合と月子の試合の時間が被ってるのー」

「月子の試合、見たかったのにー」と彼女は何とも可愛らしいことを言ってくれた。

「ま、まぁ、それ予定時間だから。時間だって当然ずれると思うよ!」

それもそうだねー、と乙葉は少し笑った。

その時だった。


「お前ホント運動音痴だな!」


このむかつく発言をしたのは、


「…ウサギと比べないでよ、こちとら生粋の文化部なもんでね!」


当然のことながら、ウサギのバカヤローだった。


「いや、文化部だってできるやつはできてるよ。なのにお前…ふはっ!」

「私だって精一杯やったの!」

「精一杯やってあれとか…ぶっ!」

「うるさいな!」

「だってあの投げ方とか、ほんと…ぶはっ!」

笑いすぎて語尾が震えている。

よくよく見れば、笑いを堪えようとして肩まで震わせているではないか。

本当に失礼なヤツ。失礼なヤツ!

「だから、仕方ないでしょ! 特に球技は大の苦手なんだから!」

こっちだって運動音痴は運動音痴なりに一生懸命にやってますよ!

相手が最強4組女子だとしても、ベストは尽くしたの!

今もなお笑い続けるウサギの阿呆にギっと睨みつけた。

すると、横から癒し効果抜群の声が聞こえてきた。

「もう、二人ともなんでこんな日にも喧嘩するのかなー?」

そう言って乙葉大天使様が仲裁に入った。

「いい加減にしなよー。こんなに楽しい日なのにー」

ウサギは笑って誤魔化していた。

どうやら私に謝る気はないらしい。

なんて失礼極まりないんだ、この馬鹿は。
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