天使のアリア––翼の記憶––
*
「えー、ここでこの式を代入する」
黒板では先生による数学の授業が行われているのだが、私は窓の外に広がる夏の青をぼうっと見つめていた。
雲一つない快晴だ。
球技大会のころにはもうすっかり梅雨は去って、夏が到来していた。
日に日に暑さは増していく。
教室にはクーラーがあるので、意外にも快適に過ごせている。ありがたい。
ぼうっと外を眺めながら、夢での母とのやり取りを思い出していた。
『後悔してない?』
慈愛に満ちた、そんな声。
お母さんが伝えたかったことは、このことだったんだね。
『してないよ、後悔なんて』
『それにもう、遅いんだよ。気づいたところで、もう遅いの』
夢の中で私はそんなことを言っていた。
目覚めたあの時は分からなかったけれど、今なら分かる。
泣きそうになる感情も、身に染みて分かるよ。
私が諦めたのは、このことだったんだね。
あぁ、本当に。
夢で見たあの時だったら、本当に間に合ったかもしれなかっただろうに。
それでも、やっぱり、
『みんなが幸せだから、それでいいの』
こう思ってしまう感情も残っているから。
きっと間に合うと分かっていたとしても、行動できなかったかもしれない。
頭の中で母の言葉が反芻する。
『みんなの幸せ。それが月子の願いなの?』
『本当は違うことを望んでいるんじゃないの?』
私が本当に望むことって、何だろう。
みんなが幸せならそれでいい。
それ以外に、あるのかな?
私に望みなんて、あるのかな?
考えてみて、はたと思い立った。
…あれだ。
あれを望んでいたんだ、私は。
心の中に、あったんだ、本当の願いが。
だけど私は臆病者で、
『本当は怖いだけでしょう?』
怖くて、願いから逃げていた。
『それを言って自分が、相手が、傷つくことが怖いんでしょう?』
私の発言で、みんなを苦しめてしまうかもしれないことが、怖くて。
『今あるこの居場所を失うのが怖いんでしょう?』
私の大切な居場所を、友達を、失ってしまうことが、怖くて。
『やめて』
夢の中ではそう叫んだ。
きっと逃げたかったんだ、願いに気づくことから。
怖かったんだ、こんなことを願っていると自覚することが。
「えー、ここでこの式を代入する」
黒板では先生による数学の授業が行われているのだが、私は窓の外に広がる夏の青をぼうっと見つめていた。
雲一つない快晴だ。
球技大会のころにはもうすっかり梅雨は去って、夏が到来していた。
日に日に暑さは増していく。
教室にはクーラーがあるので、意外にも快適に過ごせている。ありがたい。
ぼうっと外を眺めながら、夢での母とのやり取りを思い出していた。
『後悔してない?』
慈愛に満ちた、そんな声。
お母さんが伝えたかったことは、このことだったんだね。
『してないよ、後悔なんて』
『それにもう、遅いんだよ。気づいたところで、もう遅いの』
夢の中で私はそんなことを言っていた。
目覚めたあの時は分からなかったけれど、今なら分かる。
泣きそうになる感情も、身に染みて分かるよ。
私が諦めたのは、このことだったんだね。
あぁ、本当に。
夢で見たあの時だったら、本当に間に合ったかもしれなかっただろうに。
それでも、やっぱり、
『みんなが幸せだから、それでいいの』
こう思ってしまう感情も残っているから。
きっと間に合うと分かっていたとしても、行動できなかったかもしれない。
頭の中で母の言葉が反芻する。
『みんなの幸せ。それが月子の願いなの?』
『本当は違うことを望んでいるんじゃないの?』
私が本当に望むことって、何だろう。
みんなが幸せならそれでいい。
それ以外に、あるのかな?
私に望みなんて、あるのかな?
考えてみて、はたと思い立った。
…あれだ。
あれを望んでいたんだ、私は。
心の中に、あったんだ、本当の願いが。
だけど私は臆病者で、
『本当は怖いだけでしょう?』
怖くて、願いから逃げていた。
『それを言って自分が、相手が、傷つくことが怖いんでしょう?』
私の発言で、みんなを苦しめてしまうかもしれないことが、怖くて。
『今あるこの居場所を失うのが怖いんでしょう?』
私の大切な居場所を、友達を、失ってしまうことが、怖くて。
『やめて』
夢の中ではそう叫んだ。
きっと逃げたかったんだ、願いに気づくことから。
怖かったんだ、こんなことを願っていると自覚することが。