天使のアリア––翼の記憶––
全部、お母さんにはお見通しだったんだね。

私の願いも、私の感情も、全部。

…あぁ、敵わないな、本当。


この青のどこかにいるはずの母を探そうと、窓の外の空をじっと見つめた。


「…はら……華原!」

「はいぃっ!」

先生の怒ったような声を聞いて私は跳び上がるように席を立った。

一気にクラス中から注目される。

この感じは好きではない。

隣の席の乙葉はというと若干呆れ顔をしているし、前の席のウサギは笑いを堪えて肩を震わせている。

クラスのあちこちからクスクスと小さく笑う声が聞こえてきて恥ずかしい。

「授業に集中しろ!」

「すみません…」

小さく謝って席に着くと、授業は再開された。

これは後からウサギに笑われそうだ。嫌だな。

まぁ、授業中にも関わらずぼうっと考え事をしていた私も私なんだけど。

はぁ、と溜息を吐いて、数字で埋め尽くされている黒板を眺めた。





「じゃあねー」

「また明日ー」

放課後が訪れて、次々に生徒たちは教室から姿を消す。

私は席に座ったまま、ぼうっと外を眺めていた。

今日は藍羅先輩が予定が入っているから練習は中止となったので、放課後は暇なのだ。

授業中に考えていたことを思いだして、また私は考え込んでいた。


もう、言わなくちゃいけない。


溜息を吐いた。

本当は嫌だけど、でも、心がもう限界だと叫んでいる。


確かに、限界を感じていた。

もうこれ以上私の中に秘めておくのは無理だと、どこかで分かっていた。

苦しくて、切なくて、悲しくて、だけど、どうしようもなかった。

すぐに気づくことができなかった自分への罰だとも思えたから。


誰に相談することもできなかった。

いつもなら必ず相談する乙葉にも、今回はさすがに相談することはできない。

それに、他の友達に、私が好きになった人があの人気急上昇中のウサギだと言ったら、それこそ乙葉の他にライバルが現れてややこしくなるだとか、更なる大きな問題へと発展しかねない。

色々な事情を考慮すると、迂闊に話すことはできなかった。

それに秘密の話を乙葉以外の人にする気にもなれなかった。

今までナイショ話の相手は乙葉だけだったから。


これは、乙葉に頼ることなくひとりで決断しなければならないという神様のお告げなのかも。


そんなことを思って、薄く笑った。考えすぎだ。


それに今、乙葉や他の誰かに相談する必要はない。


もう決断はできている。

私がやるべきことは分かってる。


けれど少し勇気が足りない。


臆病者だと自分に呆れた。
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