天使のアリア––翼の記憶––
ん?
ちょっと待って…
今日…?
学校で…?
って、あぁぁっ!!
そうだよ、忘れてた!
そして走った。兎に角、走る。
それしか方法はない。
朝食もままならないまま、夢できいた歌を譜面に起こしたあのノートだけはしっかり鞄に詰め込んで、玄関を飛び出すのと同時に叫んだ。
「行ってきます!」
「ちょっと待ちな、月子。」
家を飛び出す瞬間おばあちゃんののんびりした声が聞こえた。私は仕方なく家に帰る。おばあちゃんに呼び止められたんじゃ仕方ない。
私の家ではおばあちゃんが権力者。絶対に抗えない。
「何?おばあちゃん。今私遅刻しそうで大変なんだけど!」
だから今から猛ダッシュしないと朝礼に間に合わないんだけど!
しかしそんな私のことなど知らぬというように、おばあちゃんはいつも通りのんびりしていた。藤色の淡い着物が上品なおばあちゃんによく似合う。
「今日の帰りはいつもより気を付けて帰ってきな。いいね?」
「え?何で?」
「話は終いだよ。急がないと遅刻するんだろ?」
あっそうだった…!
急いで腕時計を見る。勿論時間は合わせてあります。
今が何時だかわかった瞬間、私は全身から血の気が引いて行くのを感じた。
これはヤバイ。ヤバイの度を越えてるんじゃないかと思うほど、ヤバイ。
「行ってきます!」
言うのが早いか行動するのが早いか、私は急いで家を飛び出した。