天使のアリア––翼の記憶––
するとクラスメイトの女の子達の話し声が聞こえてきた。

「ねぇ、ウサギってやっぱりかっこいいと思わない?」

「確かに、この前のバレーの時もすごかったよねー!」

昔の私なら、「あのウサギヤローの一体どこがカッコイイと?」と疑問に思いそうだが、今の私は首を縦に振るしかなかった。

確かに、カッコイイと、すごいと、そう思ってしまったから。


「でも、さっきのウサギ様子可笑しかったよね?」

「あー、確かに」


耳を疑った。

様子がおかしい…?


「なーんか、思い悩んでるっていうかさぁ」

「うん、辛そうだったね」

「何かあったのかな?」


「ねぇ」


無意識、だった。


「ウサギ、様子がおかしいって本当?」


気づけば、クラスメイト達に話しかけていた。


案の定クラスメイト達はきょとんとしていたが、それでも教えてくれた。


「え、う、うん…さっき、自販機前の広場で見かけたんだけど、何だか辛そうで…」

「教室にいるときとは雰囲気が違って、どうしたのかなって思ったんだけど…って、月子ちゃん!?」


クラスメイト達の話を最後まで聞かずに、私は走り出していた。


…勇気があるとかないとか、もうそういう次元の話じゃない。



今行動しないでどうするの。


今、私が行動しなければ、また大切な人が傷ついてしまう。


そんなの、もう、嫌だ。


もうあんな傷ついた笑顔は見たくない。


見たくないよ。



教室を飛び出し、階段をおりて、廊下を駆け抜ける。

まだ夕暮れには程遠い太陽が廊下を眩しく照らす。


校舎の外と内を仕切るガラス戸は空きっぱなしで、私はなんの戸惑いもなく、その向こう側へと飛び出した。

自動販売機前の広場がすぐ見えて、そこに探していた人の姿もあった。

罪悪感と緊張で、どくんと心臓が跳ねた。


…決意は、揺らがない。


私は独りじゃない。

北斗先輩がそう教えてくれた。

私達は同じだと、教えてくれた。

同じ痛みを持つ仲間だと。


だから大丈夫と、そう心に念じて、その人の元へと足を踏み出した。
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