天使のアリア––翼の記憶––


「ウサギ!」


誰よりも共に長い時を過ごしてきた、
私の大切な人。

誰よりも幸せになってほしいと、心から願っている。

今までも、これからも。

どんなことが起きたとしても、私の最も大切な存在であることに変わりはない。


絶対に、そうなの。



私の声に反応したウサギは振り返って私を見た。

「…なんで、ここに」

息を切らす私を見て不思議そうな顔をしている。

「ウサギの様子が変だって聞いて、心配で…」

「…そっか。心配かけて悪かったな。でも、大丈夫だからさ」

心配すんな。

そう言って笑っていた。

でも、その笑顔は見るからに苦しそうで、辛そうで。

けれどそれを絶対に周りに悟らせないようにと笑顔の仮面を張り付けていて。

無理して笑っているんだなって、すぐに分かった。


そんな笑顔、しないでよ。

そんな苦しそうな顔、しないでよ。


そう思ったけど、すぐに自分の罪に気づいた。

彼にそんな辛い顔をさせているのは私のせいだったと。


どうすれば、ウサギが幸せになれるのか。

どうすれば、ウサギが笑っていられるのか。

そのために私にできることは何か。


…分かっていたんだ、ずっと前から、分かってた。

何となくだけど、分かってた。


だってずっと、ウサギのそばにいたから。

ずっとウサギのことを、見ていたから。


ウサギが望んでいる未来。

ウサギが笑っていられる唯一の方法。


私がすべきことだって、ちゃんと分かっている。




…言葉にすれば、泣きそうになるけれど。


< 291 / 351 >

この作品をシェア

pagetop