天使のアリア––翼の記憶––


「あのね、ウサギ」



決意が揺らがないように、泣いたりしないように、強く強く拳を握った。


いつか、七星先輩は私に尋ねた。

月子ちゃんの願いは何なのかと。

あの時私は大切な人と共に過ごせるならそれでいいと答えた。

もちろん今もそれは変わらない。

けれど、少し変わったこともある。


私がいちばん望むのは、今私の目の前にいる大好きな人の笑顔。

ウサギの笑顔なんだ。


いつの間にか私の価値観が、基準が、変わってしまっていた。狭まってしまっていた。


ウサギになっていた。


ウサギが笑ったら、私も笑顔になれる。

ウサギが楽しいのなら、私も楽しくなる。

ウサギが幸せなら、私の心も満たされる。

ウサギがそばにいてくれたら、私に怖いものなんてなくなってしまう。


ウサギが笑っていてくれるだけで、私は充分幸せになれるんだよ。


だから、待っててね、ウサギ。

今、私が、ウサギが抱えるその苦しみを取り除いてあげるから。


これから先、ウサギが笑って過ごせるように。


そう心に決めてウサギを見つめる。

苦しみに揺れる瞳は到底まともになんて見れないけれど、それでも決して目は逸らさない。

まっすぐ、まっすぐ見つめる。


この言葉が届くように。






「好きだよ」






そう言った瞬間、ウサギは目を見開いた。

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