天使のアリア––翼の記憶––
きっとウサギは、今更何を言っているんだ、と困っていると思う。

どんなタイミングでそんなことを、と。


でも、本当なんだ。

もう、隠しきれない。

隠したくない。



「好きなの。幼馴染として、友達として」



そして、恋の相手として。

これだけは心の中で呟いた。

これ以上ウサギを困らせたくないと思ったから。

言ってはいけないと、そう思ったから。


好きだと言えただけで、私には充分だった。

幸せなことだと、そう思った。


ウサギはといえば、不意打ちを食らったように呆然としていた。


「…月子…」


私は彼に微笑みかけながら言葉を紡いでいく。


「だからね、ウサギには笑っていてほしいんだ。これからもずっと、どんな時も」


ウサギには笑顔が似合う。

周りまで明るく照らすような、夏の太陽みたいな、そんな笑顔が。


「だからね、ウサギ」


ばれないようにそっと握っていた拳に力を入れる。


どうか泣かないで、私。

笑顔の仮面をつけていることは、決してばれはいけないから。


口角をあげて、目を細めて。


"どうか幸せになって"


大切な人へ、祈りをこめて。


言葉を、今、あなたに。









「…乙葉のとこ、行ってあげて」







ウサギはまた目を見開いた。


「好きなんでしょ、乙葉のこと」


「…お前、どうして、そんなこと…」


驚きを隠せないという顔をしている。

そんな彼に、いたずらっぽく笑ってみせた。


「だって、私達、幼馴染だから」


何だって分かるに決まってるでしょ、と言葉を付け足して。


けれどウサギは黙ったまま、下を向いていた。何だか難しそうな顔をしている。

きっとそれは彼が優しすぎるせいだと思った。
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