天使のアリア––翼の記憶––
「……でも…」

「あぁ、もう!」

大きな声を出して、焦れったいウサギの思考回路を停止させる作戦に出る。

どうやら作戦は成功したようで、ウサギは驚いたように私を見た。目を見開いたまま固まっている。

「あんたは乙葉のことが好きなんでしょ? 最近、ずっと乙葉のこと見てたの、知ってるんだよ。この幼馴染の私にはぜーんぶお見通しだからね!
だから、凄く大切なんだって、幼馴染以上に大切なんだって、すぐに分かったよ」

「…お前」

「だから、行ってあげて。乙葉のところに、行って」


これは決して2人の為の自己犠牲というわけではない。

絶対に敵わない相手__乙葉から、逃げ出したということでもない。

彼らが大好きだから、彼らに幸せになってほしいから、そのために背中を押す、ただそれだけのこと。

私が彼らにできる、彼らが幸せになれる、唯一の方法。


私は笑ってみせたというのに、ウサギは険しい顔をしている。この優しい幼馴染は、そんなことしたら私に申し訳ないとでも言いだしそうだ。

私が頑張っているというのに、そんなことを言われたらやってられない。

私の頑張りを無駄にしないでほしい。

そういうところが馬鹿なのだ。


「…でも」

「だから! いつまでもウダウダ言わないで! はっきり決断しなさいよ!」


私は責めるようにウサギに言った。

ウサギはポカンと中途半端に口を開けて黙ってしまったので、そのまま私は言葉を続けた。


「乙葉のこと、好きなんでしょう!?大事なんでしょう!?大切なんでしょう!?

乙葉は私にとっても大事な存在なんだよ、すっごく好き、大好きなんだもん!

だから、絶対に乙葉を泣かせるようなことはしないで!

もし乙葉を泣かせたりしたら、私、怒るよ!絶対許さないんだから!」


大好きで大切な幼馴染であり親友でもある乙葉を泣かせたりしたら、誰であろうと問答無用で許さない。

それが例えウサギであろうと、関係ない。

好きな人だろうが何だろうが、話は別だ。
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