天使のアリア––翼の記憶––
「話はそれだけよ。ほら行った行った!」
追い立てるように、私はウサギの背中を強く押した。
私に押されたウサギはヨタヨタと数歩、前に倒れるように進んだ。
そして立ち止まって、私に振り返ると、くしゃくしゃな笑顔を見せた。
私がずっと見たかった笑顔。
「…ありがとう」
優しさで溢れた、暖かい笑顔。
思わず緩みそうになった涙腺をきゅっと引き締めるように拳を握った。
「…乙葉のこと、幸せにしてよね」
「…言われなくても分かってる」
そう言って小さく笑うと、ウサギは前を見て歩き出した。
さよなら、初恋のひと。
どうか、お幸せに。
遠くなる背中を見つめながら、彼と彼の大切なひとの幸せを願った。
彼らに祝福を。
そう心で呟いて見上げた空は、透き通るような青色だった。
けれど少しその青が滲んで見えて、どうしてだろうと首を傾げると、雫がこぼれ落ちた。
「…私、うまく笑えていたのかな…?」
問いかけるように呟いた言葉は、まだ少し湿っている空気にそっと溶けた。
うん。
多分きっと、うまく笑えていたと思う。
そうじゃなかったら、ウサギはきっとあんな風に笑ってくれなかったから。
乙葉のところに行くと、決断してくれなかったから。
それに、ウサギは乙葉のことを幸せにすると言ってくれた。
乙葉もきっと、ウサギを幸せにしてくれるだろう。
だって乙葉はずっと前からウサギが好きで、ウサギの成功を自分のことのように喜んでいたから。
誰よりもウサギを支えてくれるはずだ。今までも、そして、これからも。
それに何より、2人は本当に、本当に素敵な人達だから。
「ふたりは幸せになれるね」
大切な幼馴染達の幸せな未来を確信した私の目からは涙が溢れていた。
涙が幾つも零れては頬を伝う。
頬に手をあて、手に伝わるその温度を噛みしめるように感じて、そっと目を閉じた。
止めどなく滴り落ちるこの涙が、水蒸気となってあの白い雲に戻る頃にはきっと、私も笑っていられると信じて。
追い立てるように、私はウサギの背中を強く押した。
私に押されたウサギはヨタヨタと数歩、前に倒れるように進んだ。
そして立ち止まって、私に振り返ると、くしゃくしゃな笑顔を見せた。
私がずっと見たかった笑顔。
「…ありがとう」
優しさで溢れた、暖かい笑顔。
思わず緩みそうになった涙腺をきゅっと引き締めるように拳を握った。
「…乙葉のこと、幸せにしてよね」
「…言われなくても分かってる」
そう言って小さく笑うと、ウサギは前を見て歩き出した。
さよなら、初恋のひと。
どうか、お幸せに。
遠くなる背中を見つめながら、彼と彼の大切なひとの幸せを願った。
彼らに祝福を。
そう心で呟いて見上げた空は、透き通るような青色だった。
けれど少しその青が滲んで見えて、どうしてだろうと首を傾げると、雫がこぼれ落ちた。
「…私、うまく笑えていたのかな…?」
問いかけるように呟いた言葉は、まだ少し湿っている空気にそっと溶けた。
うん。
多分きっと、うまく笑えていたと思う。
そうじゃなかったら、ウサギはきっとあんな風に笑ってくれなかったから。
乙葉のところに行くと、決断してくれなかったから。
それに、ウサギは乙葉のことを幸せにすると言ってくれた。
乙葉もきっと、ウサギを幸せにしてくれるだろう。
だって乙葉はずっと前からウサギが好きで、ウサギの成功を自分のことのように喜んでいたから。
誰よりもウサギを支えてくれるはずだ。今までも、そして、これからも。
それに何より、2人は本当に、本当に素敵な人達だから。
「ふたりは幸せになれるね」
大切な幼馴染達の幸せな未来を確信した私の目からは涙が溢れていた。
涙が幾つも零れては頬を伝う。
頬に手をあて、手に伝わるその温度を噛みしめるように感じて、そっと目を閉じた。
止めどなく滴り落ちるこの涙が、水蒸気となってあの白い雲に戻る頃にはきっと、私も笑っていられると信じて。