天使のアリア––翼の記憶––
「月子ー!何してるんだ、置いてくぞー!」
呼んだ、というより、叫んだという方が正しいだろう。
遠くに藍羅先輩の姿が見えた。
「ま、待ってくださいよー!」
愛用のキャリーバッグをゴロロロと大きな音を立てて引きずりながら全力ダッシュする。
追いついた頃にはぜいぜいと息が切れていた。
「お、置いてくなんて酷いです…!」
恨めしく見つめていると、藍羅先輩は迷惑そうな顔をした。
「ぼーっとしてた月子が悪いんだろ」
「せめて一言声をかけてくだされば良かったのに!」
すると藍羅先輩はキョトンとした顔で言った。
「呼んだぞ、月子行くぞーって」
聞こえてなかったのか?と更に言葉を続けた。
「うそ、聞こえませんでしたよ?!」
「確かに言ったぞ?…周りは結構煩かったけど」
「じゃあ聞こえるはずがないじゃないですか!」
半分呆れて言い返した。
あんな大きな雑踏の中、しかも考え事をしていたのだから、遠くから私を呼ぶ藍羅先輩の声は聞こえるはずもない。
藍羅先輩は、むくれる私を見事にスルーして今後の予定を告げた。
「ホテルのチェックインは夕方、ホールでの練習が終わってからだ」
「だから今からはかぐや会館に行くんですよね?」
藍羅先輩は頷いて指を指した。
「あぁ、その通りだ。さ、行こう。あ、あのバスだ」
そうして私達はバスに乗り込み、かぐや会館の最寄駅で下車した。そこから徒歩で5分弱、演奏者なら誰もが憧れる世界最高峰のステージ、ルナ・プリンシア・ホールが見えてきた。
その外観がちらりと生い茂る木の葉の隙間から見えた時、思わず声が漏れた。
「わぁ…」
何度も何度も演奏を聞きに来たホールではあるけれど、今日は今までとは違う。
今日は観客として訪れるのではない。
演奏者として訪れるのだ。
そう思うと、胸が高鳴る。
ドキドキして心臓は苦しいのに、楽しい、嬉しいという感情が湧き上がってくる。
早く、演奏したい。
ピアノを弾きたい。
演奏者側から聞くルナ・プリンシア・ホールのピアノは、どんな音色だろう。どんな響きだろう。どんな温度だろう。
あまりにも楽しみで、想像もつかない。
早く、聴きたい。
音を、響かせたい。
そんな思いが足を速めた。
呼んだ、というより、叫んだという方が正しいだろう。
遠くに藍羅先輩の姿が見えた。
「ま、待ってくださいよー!」
愛用のキャリーバッグをゴロロロと大きな音を立てて引きずりながら全力ダッシュする。
追いついた頃にはぜいぜいと息が切れていた。
「お、置いてくなんて酷いです…!」
恨めしく見つめていると、藍羅先輩は迷惑そうな顔をした。
「ぼーっとしてた月子が悪いんだろ」
「せめて一言声をかけてくだされば良かったのに!」
すると藍羅先輩はキョトンとした顔で言った。
「呼んだぞ、月子行くぞーって」
聞こえてなかったのか?と更に言葉を続けた。
「うそ、聞こえませんでしたよ?!」
「確かに言ったぞ?…周りは結構煩かったけど」
「じゃあ聞こえるはずがないじゃないですか!」
半分呆れて言い返した。
あんな大きな雑踏の中、しかも考え事をしていたのだから、遠くから私を呼ぶ藍羅先輩の声は聞こえるはずもない。
藍羅先輩は、むくれる私を見事にスルーして今後の予定を告げた。
「ホテルのチェックインは夕方、ホールでの練習が終わってからだ」
「だから今からはかぐや会館に行くんですよね?」
藍羅先輩は頷いて指を指した。
「あぁ、その通りだ。さ、行こう。あ、あのバスだ」
そうして私達はバスに乗り込み、かぐや会館の最寄駅で下車した。そこから徒歩で5分弱、演奏者なら誰もが憧れる世界最高峰のステージ、ルナ・プリンシア・ホールが見えてきた。
その外観がちらりと生い茂る木の葉の隙間から見えた時、思わず声が漏れた。
「わぁ…」
何度も何度も演奏を聞きに来たホールではあるけれど、今日は今までとは違う。
今日は観客として訪れるのではない。
演奏者として訪れるのだ。
そう思うと、胸が高鳴る。
ドキドキして心臓は苦しいのに、楽しい、嬉しいという感情が湧き上がってくる。
早く、演奏したい。
ピアノを弾きたい。
演奏者側から聞くルナ・プリンシア・ホールのピアノは、どんな音色だろう。どんな響きだろう。どんな温度だろう。
あまりにも楽しみで、想像もつかない。
早く、聴きたい。
音を、響かせたい。
そんな思いが足を速めた。