天使のアリア––翼の記憶––
「どんな最悪な状況にあったとしても、デュークに会えたから。それだけで良かったと、あたしは幸せ者だと、そう思えるんだ。
寧ろ、落ちて良かったとさえ思う。
ずっと元の世界にいたら、きっとあたしはこんなにも好きになれるひとに出会えていなかった」
デュークだけだから、と彼女は言う。
「あたしが恋をする相手は、これまでもこれからも、ずっと、デュークだけだから」
「藍羅…」
最愛のひとからの熱い想いを告げられた彼もまたその想いを伝えようとして、けれどその想いの強さゆえに言葉が詰まっているように見えた。
「…藍羅、俺も君に出会えてどれだけ救われたことか…きっと君が思う何倍も、俺は君に救われている。君の存在が俺を支えていたんだと確信を持って言えるよ。俺の好きな人も一生変わらない。ずっと藍羅が好きだよ」
そして彼は真っ直ぐ藍羅先輩を見つめて言った。
「俺、忘れたくないよ、藍羅のこと。こんなにも好きなのに。それについさっき、ようやく想いが届いたんだよ?それなのにもう離れ離れだなんて、そんなの嫌だ」
瞳には薄っすらと涙が溜まっていた。
それは私が初めて見る彼の涙だった。
「…あたしだって、離れたくない。デュークと離れ離れなんて嫌だ」
藍羅先輩は少しうつむいて切ない顔をして言った。
「でも、離れなくちゃいけない」
顔をあげてきっぱりそう言った。
瞳に迷いはなかった。
「あたしはこの世界の住人ではない。それに記憶と力が戻ったんだ。記憶があれば、自分が誰だか理解できる。力があれば、元いた世界に帰れる。だから…元いた世界に帰らない理由がないんだ」
デューク先輩は絶望の色を顔に浮かべた。
「…どうしても…帰るの…?」
震えるような声は到底デューク先輩のものに聞こえなかった。
藍羅先輩は真っ直ぐな瞳で頷いた。
「デュークの願いを叶えたら」
そして私たちの方に向き直って言った。
「今から願いを叶えようと思う。けれどあたしがデュークの願いを叶えたら、皆はあたしのことを忘れてしまう。だから今のうちに、みんながあたしを忘れる前に言っておく」
そしてふわりと笑った。
「今まで本当にありがとう」
私達が何か言おうとする前に、彼女は歌い始めた。
歌い始めると私達は何も言えなくなった。それは歌自身に力があるのかもしれないと、後になって思う。
寧ろ、落ちて良かったとさえ思う。
ずっと元の世界にいたら、きっとあたしはこんなにも好きになれるひとに出会えていなかった」
デュークだけだから、と彼女は言う。
「あたしが恋をする相手は、これまでもこれからも、ずっと、デュークだけだから」
「藍羅…」
最愛のひとからの熱い想いを告げられた彼もまたその想いを伝えようとして、けれどその想いの強さゆえに言葉が詰まっているように見えた。
「…藍羅、俺も君に出会えてどれだけ救われたことか…きっと君が思う何倍も、俺は君に救われている。君の存在が俺を支えていたんだと確信を持って言えるよ。俺の好きな人も一生変わらない。ずっと藍羅が好きだよ」
そして彼は真っ直ぐ藍羅先輩を見つめて言った。
「俺、忘れたくないよ、藍羅のこと。こんなにも好きなのに。それについさっき、ようやく想いが届いたんだよ?それなのにもう離れ離れだなんて、そんなの嫌だ」
瞳には薄っすらと涙が溜まっていた。
それは私が初めて見る彼の涙だった。
「…あたしだって、離れたくない。デュークと離れ離れなんて嫌だ」
藍羅先輩は少しうつむいて切ない顔をして言った。
「でも、離れなくちゃいけない」
顔をあげてきっぱりそう言った。
瞳に迷いはなかった。
「あたしはこの世界の住人ではない。それに記憶と力が戻ったんだ。記憶があれば、自分が誰だか理解できる。力があれば、元いた世界に帰れる。だから…元いた世界に帰らない理由がないんだ」
デューク先輩は絶望の色を顔に浮かべた。
「…どうしても…帰るの…?」
震えるような声は到底デューク先輩のものに聞こえなかった。
藍羅先輩は真っ直ぐな瞳で頷いた。
「デュークの願いを叶えたら」
そして私たちの方に向き直って言った。
「今から願いを叶えようと思う。けれどあたしがデュークの願いを叶えたら、皆はあたしのことを忘れてしまう。だから今のうちに、みんながあたしを忘れる前に言っておく」
そしてふわりと笑った。
「今まで本当にありがとう」
私達が何か言おうとする前に、彼女は歌い始めた。
歌い始めると私達は何も言えなくなった。それは歌自身に力があるのかもしれないと、後になって思う。