天使のアリア––翼の記憶––
後退りをする私と、それに合わせてジリジリと詰め寄る男共。


「…私に何の用ですか」


口をついて出てきた言葉はそれだった。


私は、人に対して、特にこの方々に対して恨まれるようなことは一度もした覚えもない。こんな怖い人達と会うのだって初めてだ。

華原家がこんな危ない輩とつるんでいるわけがないし、ますます意味が分からない。


私の質問に答えることもなく、ニタ、と口を閉じたまま不気味に右端を上げた唇に恐怖を感じる。



「星宮藍羅の居場所を教えろ」



その威圧感と言ったら、ない。すぐにでも殺しそうなほど強い意思を感じる。


どうしよう、おばあちゃん。

私、帰れないかも。



周りをブロック塀で囲まれたこの空間がやけに寒々しい。

嫌だな、私こんなところで死ぬのか。死ぬならせめて、大切な人達―――おばあちゃんやウサギ、乙葉に看取ってほしかったのに。



「早く言え」


口からついて出てきた言葉は、


「誰、ですか貴方達は」


これだった。私は知らない。こんな危なそうな輩のことなど。

そんな輩に、私の大好きな藍羅先輩のことなど、誰が教えるか。教えたら、藍羅先輩を危険な目に合わせることは目に見えている。そんなことはさせない。

口調は強気だが、内心は焦っていた。身の危険を痛いほど感じる。


「お前に名乗る必要はない」


そう言われた時には既に私は囲まれていた。逃げ道は断たれた。




ど、どうしよう…

逃げることができない。強行突破も、無理そうだ。私は、武術も何も、運動に関して得意なことなど一つもない。
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