天使のアリア––翼の記憶––
「教えろ」


「………す……」


「あ?」

ジリジリと詰め寄る男共。私に近づかないで。


「嫌、です…」


教えない。例えこの口が裂けようと、ここで殺されようとも。大切な人を売るようなことは、しない。


「小娘が調子に乗りやがって!」


あらゆる方向から殺気を感じる。しかし、教えたりしない。



「おい、こいつを連れて行け」


「え…?」


その合図で数人の男達が私を取り押さえようと近づく。


「嫌、来ないで!」


しかし対抗するも空しく、私を捕えると近くに来ていた車に連行しようとする。


「んっんぅ!」

口元を手で塞がれて上手く言葉が出てこない。


嫌、嫌だ、やめて、やめて、やめて、汚い手で、触らないで。


必死に抵抗しようにも、数人の大人の男性に身柄を取り押さえられては何もできない。悔しい。


しかしそれ以上に、怖い。


私はこの男達に連れて行かれたら、何をされるのだろうか。

私の事情がバレたなら、殺される可能性だって出てくる。



『今日の帰りはいつもより気を付けて帰ってきな。いいね?』


おばあちゃんは、このことを言っていたのだろう。今となってはもう遅いことだけど。
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