天使のアリア––翼の記憶––
「月子!」

「ウサギ…」

ウサギが駆け寄ってきて、少し緊張が解けたのも束の間、

「早く逃げるぞ」

「え?でも…」

「いいから」

私の手を引いて、そのまま男達から逃げるように走り出した。


手を引かれて走りながらも、私はさっきの男達のことが少し心配だった。否、男達ではない。私が心配なのは、ウサギのことだ。

まさかウサギ…人を殺したわけじゃないよね?

ウサギに狙撃された人は、まだ立ち上がっていなかった。私の場所からだと動いているようには見えなかった。

どうしよう。私、嫌だよ。大事な幼馴染が人殺しだなんて。それも私のせいだなんて。

私、嫌だよ…


男達の姿がすっかり見えないところまで来ると、


「ここまでくれば大丈夫だろ」


危機一髪だな、と笑っているウサギの瞳だけは笑っていなかった。本当に、ギリギリだったからだろう。


「大丈夫か?何もされてねーか?」

私は道路にへたれこみ、ウサギの問いに力無く頷いた。

どうして、このウサギの阿呆は息が切れていないのだ。私は息が切れて必死に酸素を体内へと運んでいるというのに、なぜコイツは全く余裕そうな顔をしている。そうか!これが文化部と運動部の差か!

って、それよりも、

「ありがと、助けてくれて」

ウサギが来てくれなかったら、私は連れて行かれていた。本当に感謝、感謝だ。

「幼馴染だ、当たり前だろ?」

ニッと笑った笑顔に私も笑い返した。

しかし、すぐに思い出した。

「あの…さっきの人達は、生きてるの…?」

正確に言えば、男達の生死より、ウサギが人を殺してしまったのか否かが聞きたいんだけど。


「何?俺が人を殺したかどうかが気になるわけ?」

私は頷いた。

だって、絶対嫌だもん。ウサギが人殺し、なんてそんなの嫌だ。

しかしそんな恥ずかしいことは言えずに俯いて黙っていると、ウサギがクスクスと笑いだした。


「何?俺のこと心配してくれてんの?」

図星も図星、大当たりで何も言えない。ほら、こういうところがムカつくんだ。
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