天使のアリア––翼の記憶––
「何も言わないってことはそういうことなんだ?」

「…バカウサギ」

「ふーん、あの月子が、俺の心配をねぇ」

ニヤニヤと笑っているウサギにイライラする。

同時に羞恥心が襲う。


「だって、自分の幼馴染が人殺しになっちゃったら嫌に決まってるじゃない!」


私は自分の顔が熱を持って顔が赤いことを知っているけれど、それが恥ずかしくてウサギの顔を直視できずに、そっぽを向いたまま、呟くように言った。


「まあ、そうだな。俺もそう思う」

あははと他人事のように笑っているウサギ。ちょっと、分かってるわけ?あんたのことだよ、あ・ん・た・の!


「けど、心配はいらねーよ。殺してねぇから。足にかすめただけだ」

「そう…それなら良かった…」

ちょっと安心しかけて、ハッと我に返った。


「どうして、ウサギが拳銃なんて持ってんの?銃刀法違反でやっぱり捕まるんじゃ…」

するとまたしてもあははと笑いだしたウサギ。何がそんなに面白いのだろうか。謎だ。謎である。ついに壊れたか。

「まぁ、お前が気にすることじゃねぇよ。大丈夫だ、銃刀法違反で捕まったりしねぇから」


「そ、うなんだ…」

納得しても、また別の疑問が溢れ出てくる。切がないと自分でも分かる。

最初から、聞きたかったことを思い出した。


「どうして、ここにいるの?だって、あんた、今バスケ部って練習してるんじゃ…」


バスケ部の大事な試合も近いって聞いていた。普通なら今は部活している時間帯なのに、どうしてこんな場所に?


「相変わらず阿呆だな、月子は。お前を助けるためなら俺はいつどこにでも参上してやるっつーの」


そうやって不敵な笑みを浮かべるものだから、いつものように軽口でも叩きたいのに何も言えなくなる。

目だけは真っ直ぐで、どこか妖艶で。

なんでそんなカッコイイ顔をするかな。

ウサギのくせに、生意気。

すっごくすっごく、むかつく。
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