天使のアリア––翼の記憶––
「どうして、この場所が分かったの…?」

だってこの場所は、生徒どころか人だって滅多に通らない裏道。存在だって知らない人が大半なのに。こんな複雑に入り組んだ場所で私がピンチだなんて、どうして分かったのだろう。


「お前の居場所なら、分かんだよ」


「え…?」

それって理由になってないよね、と言おうとしたけれど、言えなかった。

だって、

「お前のことなら何だって分かんだよ」

ウサギが私を、その真っ直ぐな瞳で見据えていたから。


不意にドキッと心臓が音をたてた。

それはウサギがいつもに似合わず真剣な顔をしているからだと思うけど。


そんな、そんな真剣な、まっすぐな目をしないでよ。

だって、そんな顔されたら、女子はイチコロって言いますか、何だかもう本当にそういう意味で好きになりそうじゃないですか馬鹿ウサギコノヤロー!

思考回路はオーバーヒート寸前だ。

それよりも、

「意味、分かんないよ…」

どうしてウサギがここにいるのかも、どうして私の居場所が分かるのかも、どうして部活中にも関わらずこの場にいるのかも、どうしてそんな発言をするのかも、何もかもが。

男達に追われてることも、そうだ。


「それは…」
「見つけたぞ!」


ウサギと被るように、男の声がした。

見ると、黒いスーツに黒のサングラス。あの奴らだった。

気づかないうちにウサギが私をかばうように前に出ている。


「さっきはよくもやってくれたな」

「まぁ、怪我させたのはお前じゃなくて他の奴なんだけどな」

「その娘を渡せ」

「嫌だね」

何でウサギはこんなにも余裕なんだ…こんなに睨みつけられていると言うのに…!

「ならばここで死んでもらおう」

男達は一斉に銃を構えた。銃口の先はもちろん、ウサギと私。

ウサギはただ私を守ろうとしてくれている。辺りに緊張が走る。

あぁ、こういう状況のことを言うのだろう。


危急存亡…

孤立無援…

四面楚歌…



絶対、絶命…
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