天使のアリア––翼の記憶––
「銃に付いてるその笹の紋章…お前ら竹取会か」

ウサギは何やら分からないことを口走っている。一体何のことを喋っているのか。

「…なぜ分かる」

「その有名な紋章を見て分からない方が阿呆だっつーの。で、その竹取会がこいつに何の用だ」

こいつ、とはどうやら私のことらしい。

「理由は告げる必要がない。その娘が、その夢巫女が必要なのだ」

私は目を見開いた。


え…?

夢巫女、って言った…?

どうして、知ってるの…?

私の最大の秘密。トップシークレットなのに…!


「ふーん、こいつを悪用しようってか。させるわけねーだろ」

いや、ウサギも何納得してんのさ!?

「ならば力づくで奪うまで」

「だからさせねぇっつてんだろ?」

ウサギが拳銃を取り出そうとした瞬間に響いた、残酷で愛想のない乾いた拳銃の音。その音と共に繰り出された球は、ウサギの右足の僅か数十センチ先のアスファルトにめり込んでいた。


「うわ!」

私は思わず耳を塞いだ。

しかしそれは威嚇するためのものだったらしく、誰も何も怪我をしていなかった。

拳銃を見ると銃口から煙が立ち上っている。


「下手な行動を取るな。撃つぞ」

「チッ物騒な奴等だなぁ」

「私語は慎め。手を挙げろ」

おずおずと従う。

完全に優位なのは、相手だ。

どうしよう…


「月子、安心しろ。お前のことは必ず守ってやるよ」

ウサギが前を見据えながら言った。

「え…?」


「俺の命をかけてな」

いつもよりも低いその言葉はどこか重厚で、私はまた何も言えなくなった。
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