天使のアリア––翼の記憶––
「フン、かっこつけやがって。どうやって守ると言うんだ。手出しができないというのに」

嫌だが、私も男達に同感だった。

どうするつもりなんだこいつは。何もできないのに。拳銃さえ構えられないのに。


しかし依然としてウサギは強気だった。


「へっ俺には秘策があんだよ」

「秘策だと?フン、小僧が強がりやがって」

「強がりかどうかは、後で分かるさ」


ウサギはくつくつと笑っていた。

私を守るように盾のように前にいてくれるので、あまり見えなかったけれど、確かに、微かに笑みが見えた。


一体何を根拠に、そんなことが言えるのだろう。

孤立無援なのに…


「フン、強がらなくとも貴様から殺してやる」


男の一人が、親指でハンマーを起こした。

男達のもつその拳銃は味気ない無機質な鉄の色をしているのだが、金属故に体に夜を反射していた。そのせいで闇より深い残酷な漆黒の色を身に纏っている。

この拳銃が、その20センチにも満たないそれから繰り出される小さな弾丸が、命を奪うのか。5センチにも満たないその小さな弾丸が、命を奪うのか。ウサギの命を、奪うのか。

それも、ウサギは一切悪いことをしていないのだ。



全ては、私のせいだ。


おばあちゃんの言うことをちゃんと聞いて帰っていれば、気を付けて帰っていれば、こんなことにはならなかったのに。

ちゃんと気を付けて帰っていれば、ウサギを巻き込むこともなかったのに。

それなのに。


私のせいで、ウサギが今、死んでしまう。

私の、せいで。


男は引き金に指をかけた。

万事休す。

そう思い目を閉じた、その時だった。
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