天使のアリア––翼の記憶––
「さすが乙葉だな。拳銃真っ二つじゃん」

はっと見ると、確かにアスファルトの上に転がっている物体は、鋭利な刃物で真っ二つに切られた拳銃だった。ここまで壊れたらもう元には戻らないだろう。あのふんわり乙葉が先程の一瞬のうちに、スクラップに変えてしまったというのか。

有り得ない。こんなことってあるのだろうか。

だって、あの乙葉が、こんなことをするなんて。


「そうー?でもまぁ、ウサギには敵わないんだけどねー」

「いや、お前はかなり上達したよ。さすがだな」

「ウサギのお蔭だよー。ウサギの教え方が上手いからだねー」

「俺の教え子の中ではダントツだ。実力で言えば、そこら辺の剣士の遥か上だぜ?」

「本当にー?ウサギにここまで褒められると嬉しいなー」


物騒なモンを片手にニコニコと微笑みあう幼馴染たち。会話が可笑しい。何を喋っているのか理解はできるのだけれども、内容については一切ついていけない。

なんだ、この人達。彼等は本当に私の幼馴染なのだろうか?

その二人から目を逸らせば、さっきまでウサギを撃とうとしていた男達が倒れているわけでして。本当に、もう、

「訳分かんないよ…」


ウサギが拳銃を持ってて、乙葉が日本刀持っている。このまま街中歩いていたら銃刀法違反で即刻捕まりそうだ。

なんで私はこんな物騒な物ばかり持つ人達と幼馴染なんだろう…

なんで、こうなった…?

なんで、こうも危ないんだろう…?


「取り敢えず、月子の家に行こうー?この人達は気を失っているだけだからー、直ぐに意識を取り戻して追いかけてくるかもしれないしー」

「そうだな。新手の奴らも来るかもしれない。歴(れき)ばあも、さぞ心配してるだろう」

歴ばあとは私のおばあちゃんである、華原暦(かはら こよみ)のこと。近所の人達からは"歴ばあ"の愛称で親しまれています。

って、おばあちゃんの解説してる場合じゃない!


ぐい、とウサギに腕を引っ張られた。

「悪いが時間がねぇんだ」

「えぇ!?」

「月子、行くよー!」

「えぇぇぇええええ!?」


訳が分からないまま、三人で走って家まで帰ることになった。
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