天使のアリア––翼の記憶––
「…あ、そうだったねえ。月子には何も説明してないんだったねえ」

「なるほど」

「そういうことねー」

二人とも、ようやく納得した、というような感じ。

ウサギが「俺が説明する」と話し始めた。

「まず、月子を追いかけてた奴らは竹取会といって、テロ組織だ」

「て、テロ組織!?」

私、テロ組織に狙われていたの!? 何で!? 私何かしましたっけ!?

「竹取会は裏社会では最も有名な、世界を股にかけている組織だな」

「そ、そそんな奴らがどうして…? って、おばあちゃん、奴らが私のこと!」

「夢巫女だと知ってたねー」

乙葉は、いつものことながら、のほほんとしている。どうしてこんなときでさえ癒し系なのだ。

「あぁ、それは驚きだったな」

ウサギもなんだか呑気だ。これが乙葉パワーなのか。

いや、驚くのはそこではなくて、

「み、皆、私が夢巫女ってことを知ってるの!?」

二人ともにっこり笑顔だった。少し哀れむように私を見ている。それまた悔しい。


そうそう、夢巫女っていうのは、その名の通り、夢で未来を見ることのできる巫女のことです。

分かりやすく言うと、予知夢が見れる女の人達って感じだね。

見える未来は人それぞれ能力によって違うけれど、私なんかはまだまだ力がなくて、ろくな夢も見られない。

見たとしても、いつの未来か、誰に関わりがあるのか、というような重要なことは分からないんだ。なんだかデフォルメされたものとか、断片的な映像だけ、音声だけ、というのが多い。

その点おばあちゃんは凄い。

おばあちゃんは"暦"の名を与えられている程の凄腕の夢巫女。様々な二つ名はあるけれど、暦、月読(つくよみ)の二つは最も優れた巫女に与えられる。

あ、そうなんです、おばあちゃんは華原暦という偽名を使って生活しています。

本名は別にちゃんとあるんだよ。私には教えてくれないんだけど。

本名を使っていると、危ない人達に何されるか分からないからね。仕事上、呪い殺されたり…なんてあるから。


私の、お母さんみたいに。


で、今日おばあちゃんが言ってた『気をつけて帰ってくるんだよ』って言うのは多分夢でこのことを知っていたからだと思う。

おばあちゃんほど強くなると、それがいつの夢かということも分かるらしい。

そんな華原家には、夢巫女の力を頼ってくる依頼主が訪れる。

で、その時に通すのがこの客間、ということ。
< 66 / 351 >

この作品をシェア

pagetop