天使のアリア––翼の記憶––
「こう見えても、ウサギって結構強いんだよー? 教え方もいいから、どんどん力がつくんだー」

「こう見えてもってのは余計なんだけどな。まぁ、乙葉が要領良いかんな。俺の教え子の中じゃ断トツだ」


フッと笑ったウサギに一瞬心臓がドキリと音を立てたが、無視した。

教え子の中じゃ、ってことは、他にも教え子がいるの!? このウサギに!?

「本当にー? 嬉しいなー」

乙葉は本当に嬉しそうな顔をしている。心から喜んでいる。

無邪気だ…無垢だ…あぁ、もう可愛いな。

だけど、どうしてかな。そんな乙葉を見て少し胸が痛んだけれど、それも無視する。きっと相当疲れてるんだ。乙葉の笑顔に癒されないほどに。よし、今日は早く寝よう。

だけど、知らなかった。

二人に、こんな特技があったなんて。


「…んで」

「え?」

「なんで、私には何も言ってくれなかったの?」

私だけ、仲間外れみたいじゃない。

そりゃ、私にはピアノくらいしか取り柄はないけれど、運動音痴だけど、でも教えてくれたって良かったんじゃない?

「今日みたいな日がくることを恐れてたんだ。 みんな、お前のことを守りたかったんだ」

「うさ…」

ウサギにしては珍しく真剣な表情をしている。


「お前と俺達で夢巫女のことを話していて、もし誰かに聞かれていたら、どうなると思う?

今日みたいに誰かに襲われそうになる日がくることも考えられないわけじゃねぇだろ。

今日よりももっと危険な輩がお前のことを狙ったり、殺そうとしたりする可能性だってあるんだ。

だけど、ここにいる乙葉も俺も、歴ばあも、お前の父さんもみんな、お前をみすみす危険な目に合わせたくなかった。

だから月子が危険な目に合わないように、このことは秘密にしておくことにしたんだ」


「そう、なんだ…」


もう言葉が出てこなかった。

色んなことを考慮した上で決められたことなのに、最善の判断だったのに、私は何て子供みたいな考え方をしていたんだろう。恥ずかしい。
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