天使のアリア––翼の記憶––
「あの子がそんな夢を見てしまったものだから、月読の娘である月子まで狙われているってわけさ」

「そんなことが…」

お母さんが言い遺した言葉の意味は分からないけど、娘の私まで狙われるほど重要な夢だったんだ。

「じゃあ竹取会が私を狙ったのは…!」

「そうだ。月読さんの夢の言葉にあったように、願いを叶えることができる歌姫を探すためだろう」

ウサギが重々しく言った。

私にそんな力があるわけがない。

名前すら与えられていない、巫女の出来損ないなのに。


「歌姫って、誰なの?」

歌姫と言うくらいだから…歌手なのかな?

「それは…」

ウサギは口を閉ざしてしまった。どうやら言いにくいことらしい。


「天使、なのさ」


「て、んし…?」

あ、あはははは。 て、天使、だなんて、おばあちゃん、いつからそんなファンタジーな単語を口に出すようになったの。

一体どうしたんだろう。 やっぱりこんなに皆がおかしいんだもの、今日ってエイプリルフールだっけ? いや、今日は5月だ。 旧暦でエイプリルフールなんてするわけもないし、今5月も中旬だし!

「驚くのは分かるさ、私だって驚いたからねえ。 でもあの子は確かに天使だと言ったんだよ。 確かに絶世の美女で、歌声は素晴らしく、その背中から翼が生えていたと」


絶世の美女…

素晴らしい歌声…

天使…

あれ、この組み合わせ、どこかで見たことがなかったっけ? 私、この組み合わせを知っているような気がするんだけど…どうしてだろう?

必死に記憶を探すけれど、その欠片すら一向に見つからない。

あれ、やっぱり私の気のせい…?

「月子、どうかしたー? 具合悪いー?」

乙葉の心配そうな声が聞こえて意識を元に戻す。

顔を上げると、大きな瞳が心配そうに私を見つめていた。

「何でもないよ、ちょっと混乱していただけ」

私は笑った。

こんなに沢山の情報が一気に押し寄せてくると、混乱だってしてしまうのは当然だろう。
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