吐き捨てられるくらい
一歩が怖かった。
好きという感情がわからなくなって、ずるずると付き合っていてもいいのか。
これではセックスフレンドとたいして変わらない。
彰吾が私に「好きだ」とではなく「しよう」と囁くときだけ、甘い声だと思った。
声が好きだったの?
それとも彼のテクニック?
そんなんじゃない。そういうのじゃない。どこかが好きで付き合ったんじゃない。それは説明のしにくい何か……。
目の前には敦司さんの寝顔がある。
少し長いかな、と思う黒髪と、きりっとした目もと。静かな空を悠然と飛ぶ鳥を思わせる。
色は少し白めで、しかしそれは華奢には繋がらない。
むしろ、がっちりしている。
そこまで相手の顔を見ていて、不意に自分が裸だということが恥ずかしくなった。背を向けてしまおう。けれど、眠そうな、それでいて少し気だるげにゆっくり開いた目。
真琴、と引き締まった腕が腰に伸ばされる。
「頑張ったな」
「えっ」
そういうと抱き寄せるというより、敦司さんのほうが体を寄せてきた。
私の視線は丁度胸板あたりにある。頭には敦司さんが顔を寄せる。