吐き捨てられるくらい
「あーあ、子供見たいね、私」
「俺としては嘘をついて笑っていられるより、今の姿を見られて良かったと思うけれど」
「泣けないくらい、あいつのことを憎んでやればよかった。けど」
「何事もそう上手くはいかないよ、真琴」
一緒にいた間は、本物だったのだ。
嘘じゃない。
私だって彰吾のことを好きな時期もあった。確かに。
一緒にいたとき、私は笑っていたのだ。
確かにあった。
どうしてこうなったかなんて、わからない。わかりっこない。
わかりたくないけど、そういうものなのかもしれない。
好きじゃないよ。
好きじゃない。
――――好きだった。
確かにあの時、私は彰吾のことが好きだったから笑っていたのだ。けれどそれがいつしか変わってしまって、まるきり私自身が別人になってしまったみたいになって。
考えれば、おかしい。
好きだった、はずなのに、私は。
貴方を憎んで、大嫌いだお前なんか、と吐き捨てられるくらい、本当に嫌いだったら良かったのに。
けれどそれが出来なかった。
何故。
好きだったから。確かに。
あの時の、私は貴方を。
貴方が好きで、笑って毎日が輝いて見えていた私も。
そう思う私は、胸に残る冷たさをそっと温めるような敦司さんのぬくもりに、目を閉じる。
了
14/2/7