小咄
「長屋? いえ、大きな家を、何人かで借りるんです。小規模な寮みたいなものですね。それで、それはいいのですが、そこには男の人が二人いて。どうもどちらも、私の幼馴染を狙っているようなのです」

「ほぉほぉ。そらまた、結構なこったなぁ」

「どこが。そもそも私の幼馴染は、とても幼くて。自分の状況が、さっぱりわかっていないのです」

「そんな幼いんだったら、返って安心じゃねぇか。狙ってるってのだって、ただ単に、そいつらはお子様好きなだけかもしれんだろ。案外そのシェアハウス? とやらは、保育園なんじゃねぇのかい?」

「……何を言ってるんです。幾ら何でも、そこまで幼くないです。シェアハウスにいるんですから、それなりに大人ですよ」

 素直に言葉通りに取る千之助に呆れながら、六郎は言葉を続ける。

「とにかく、幼馴染は内面が恐ろしく幼いので、男を男として見ないというか。平気で一緒に寝たり……」

 勢い込んで話していた六郎が、いきなり上を向いた。
 何を思い出したのか、真っ赤になって鼻を押さえている。
 狐姫が、そ、と懐紙を差し出した。

「か、かたじけない」

 上を向いたまま懐紙を受け取り、鼻を拭く。
 懐紙が赤く染まっていた。

「そんなガキだったら、例え見てくれが大人でも、相手の男も、そう妙な感情は抱かないんじゃねぇのかな」

「そ、それが、そうでもないんです。何せ、幼馴染は可愛いもので……」

「そうかい」

 椅子の背に身体を預け、千之助はテーブルに置いてあった煙管に手を伸ばした。
 どうも六郎の話だけでは、その幼馴染像は浮かばない。

「庇護欲を掻き立てる子ってことかねぇ」

 口を挟んだ狐姫に、六郎は大きく頷いた。

「そう! まさに、そんな感じなんです! 小さくて、幼くて、無防備で。とにかく可愛くて、守ってやりたくなるんです!」

 今までは、どこか遠慮がちに話していた六郎だったが、幼馴染の詳しい説明になると、途端に声を張り上げた。
 拳を握り締めて、熱く語る。
 万が一のために、鼻には懐紙が丸めて詰め込まれているが。

「ほぅほぅ、なるほど? そんな子なら、同じ家にいる男に食われても、おかしくねぇってか」

 あからさまな千之助の言葉に、ひく、と六郎が引き攣った。
 がくりと項垂れる。

「そう……なんです。実は……前に遊びに行ったときに、そのシェアハウスに行って、皆にも紹介して貰ったんですけど。すでに一人の男の子には、宣戦布告されてますし、もう一人の男だって……」

 く、と六郎の顔が、悔しそうに歪む。

「あ、あの男のほうが、曲者かもしれん。奴には別に、それらしいことを言われたわけではないが。でも奴が一番、深成ちゃんにちょっかいを出している。馬鹿にするふりをして、何だかんだで深成ちゃんが可愛くて仕方ないのだろう。ああ、あの夜だって、私がいなかったら、きっと奴は、深成ちゃんを我が物にしていたに違いない……!」

 一点を見つめてぶつぶつ言っていた六郎は、そこまで言って、またいきなり上を向いた。
 鼻に詰めた懐紙が血を吸い過ぎて飽和状態になり、重みで落ちてきている。
 狐姫が、また新たに懐紙を差し出した。
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