小咄
そしてそれから一週間後。
その夜は、いつもより遅くに真砂はやってきた。
「いらっしゃい、真砂」
いつものように、ててて、と走り寄りたいところを、ぐっと堪える。
今日は『大人な深成』で攻めるのだ。
「遅かったのね。来てくれないのかと思って、悲しかった」
真砂の横に座り、ボトルを用意する。
ちょっと真砂は妙な顔で深成を見た。
が、すぐにいつもの表情に戻り、ボトルを開ける深成に、水を所望する。
「店のバースデーイベントで飲み過ぎた。薄めで作ってくれ」
「あ、そうなの?」
きょとん、と言ってしまってから、慌てて深成は口調を変える。
「店で祝って貰ったんだ? わらわが初めじゃないのね」
油断すると、どうしてもいつもの子供っぽい口調になってしまう。
いかんいかんと思いつつ、グラスを真砂に差し出すと、そこで初めて真砂がじっと見ていることに気付いた。
「……なぁに?」
チャンスと思い、にっこりと(自分の中では)艶やかに微笑む。
真砂は黙ってグラスに口を付けた。
が、依然視線は深成に据えたままだ。
見惚れている、という甘やかな視線ではない。
いかにも妙なものを見るような、不審げな視線だ。
「真砂、ホストですもんね。バースデーイベントがあるのは、当たり前ね」
ほぅ、と物憂げに、ため息をついてみせる。
真砂がグラスを置いた。
「ま、イベントはしょうがない。……それよりも」
ソファに深く身体を沈め、真砂は深成を真っ直ぐに見た。
「どうしたんだよ。何だよ、今日の態度は」
「何って」
「おかしいぜ。いつものお前じゃない」
「おかしい?」
「ああ。変だ」
きっぱりと言われ、深成は口をへの字に曲げた。
どうやら大人っぽい喋りは失敗だったようだ。
が、真砂は、ぷぅ、と膨れる深成に、口角を上げた。
「ふふ。戻ったな」
「……真砂を喜ばそうと思ったのに」
膨れっ面のまま言い、だが深成は、早々に喋り方は諦めた。
真砂が喜んでくれないなら、無理してやる必要はないのだ。
その夜は、いつもより遅くに真砂はやってきた。
「いらっしゃい、真砂」
いつものように、ててて、と走り寄りたいところを、ぐっと堪える。
今日は『大人な深成』で攻めるのだ。
「遅かったのね。来てくれないのかと思って、悲しかった」
真砂の横に座り、ボトルを用意する。
ちょっと真砂は妙な顔で深成を見た。
が、すぐにいつもの表情に戻り、ボトルを開ける深成に、水を所望する。
「店のバースデーイベントで飲み過ぎた。薄めで作ってくれ」
「あ、そうなの?」
きょとん、と言ってしまってから、慌てて深成は口調を変える。
「店で祝って貰ったんだ? わらわが初めじゃないのね」
油断すると、どうしてもいつもの子供っぽい口調になってしまう。
いかんいかんと思いつつ、グラスを真砂に差し出すと、そこで初めて真砂がじっと見ていることに気付いた。
「……なぁに?」
チャンスと思い、にっこりと(自分の中では)艶やかに微笑む。
真砂は黙ってグラスに口を付けた。
が、依然視線は深成に据えたままだ。
見惚れている、という甘やかな視線ではない。
いかにも妙なものを見るような、不審げな視線だ。
「真砂、ホストですもんね。バースデーイベントがあるのは、当たり前ね」
ほぅ、と物憂げに、ため息をついてみせる。
真砂がグラスを置いた。
「ま、イベントはしょうがない。……それよりも」
ソファに深く身体を沈め、真砂は深成を真っ直ぐに見た。
「どうしたんだよ。何だよ、今日の態度は」
「何って」
「おかしいぜ。いつものお前じゃない」
「おかしい?」
「ああ。変だ」
きっぱりと言われ、深成は口をへの字に曲げた。
どうやら大人っぽい喋りは失敗だったようだ。
が、真砂は、ぷぅ、と膨れる深成に、口角を上げた。
「ふふ。戻ったな」
「……真砂を喜ばそうと思ったのに」
膨れっ面のまま言い、だが深成は、早々に喋り方は諦めた。
真砂が喜んでくれないなら、無理してやる必要はないのだ。