小咄
 閉店後、深成はいそいそと荷物をまとめた。
 いつものように化粧直しをしていた千代が、つつつ、と傍に寄って来て、ぽん、と肩を叩く。

「やったじゃないか。頑張って、がっちり繋ぎ止めるんだよ」

 そう言って、深成の手に何かを握らす。

「うん! 頑張る!」

 言いつつ、そろ、と手を開けば、握らされたのは可愛いパッケージの薄いモノ。
 ピンク色の円形のものが見える。

「直前で上手く逃げることなんざ、出来ないだろ? せめて己の身は、出来ることで守らないとね」

「う、うん。わかった」

 いきなり生々しいものを突き付けられ、深成はちょっと頬を染めた。
 そんな深成に、千代はぷしゅっと香水をかける。

「じゃ、頑張っといで」

 ひらひらと手を振って、千代は化粧直しに戻った。
 深成はとりあえず、じ、と鏡を見てみたが、化粧直しをしようにも、元々そんなにしていないので、どこをどうしたらいいのかもわからない。
 それよりも、早く行かねば、と、上着だけを羽織って荷物を持った。

「じゃあママ。行ってくるね」

 普通にアフターに行くキャストたちの誰より早く、深成は狐姫に声をかけて出口に向かう。

「頑張っておいで。でも、後悔しないようにね」

 狐姫にガッツポーズを送り、深成はエレベーターに乗り込んだ。
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